
はじめに
40歳未満卵巣予備能低下(DOR)女性では正常予備能の女性に比べ臨床妊娠率が10〜15%、出生率が5〜17%低下し、40〜45歳ではしばしば出生率が10%を下回ります。多様な調節卵巣刺激(COS)法が試みられてきましたが、特に高年齢層では有効性の報告が一致せず、合意は得られていません。第三世代アロマターゼ阻害薬であるレトロゾールはアンドロゲンプライミングを介して胞状卵胞リクルートを促進する可能性があり、本試験はレトロゾールとゴナドトロピンを組み合わせた修正レトロゾール法(mLP)を、従来のGnRHアンタゴニスト法と前向きに比較した初の多施設RCTです。
ポイント
修正レトロゾール法とGnRHアンタゴニスト法で累積出生率・累積妊娠率は同等でしたが、DOR女性に新鮮分割胚2個移植を行った場合は修正レトロゾール法で臨床妊娠率が有意に高い結果でした。
引用文献
Yang Zhao, et al. Nat Commun. 2026;17:4282. doi: 10.1038/s41467-026-70964-5.
論文内容
卵巣予備能低下または高年齢の女性に対する体外受精において、修正レトロゾール法(mLP)がGnRHアンタゴニスト法と比べて妊娠・出生予後を改善するかを検証することを目的とした、中国6施設での多施設・非盲検の無作為化比較試験です。
対象患者は、437人をスクリーニングし、組み入れ基準を満たした318人を登録しました。対象は、40歳未満でDOR(AMH<1.2 ng/mLまたはAFC<5)を有する女性、もしくは40〜45歳の女性で、4周期未満の体外受精/顕微授精(IVF/ICSI)を予定する不妊女性です。除外基準は卵巣手術歴、重度男性因子(非閉塞性無精子症、AZF遺伝子微小欠失など)、片側/両側卵管留水症、子宮形態異常(単角子宮、子宮腺筋症、子宮内腔癒着、未治療の子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫など)、両親いずれかの染色体異常でした。年齢で層別化のうえ1:1で割り付け、mLP群・GnRHアンタゴニスト群各159人としました。両群の平均年齢は37.0 ± 4.9歳 vs 37.9 ± 4.2歳、40〜45歳の割合は40.3%(64/159)vs 44.0%(70/159)、DORの割合は59.8%(95/159)vs 56.0%(89/159)でした。AMHは両群とも0.9 ng/mL、FSHは10.3 vs 10.5 IU/L、AFCは6.1 vs 6.2、不妊期間は4.4 vs 4.8年、原発不妊は33.3% vs 26.4%とベースラインは同等でした。
刺激法は、mLP群が月経2日目からレトロゾール5 mg/日を5日間、5日目からゴナドトロピン(Gn)300 IU/日を併用し、GnRHアンタゴニスト群は2日目からGn 300 IU/日を投与、両群とも6日目(Gn投与5日)からアンタゴニスト0.25 mg/日をトリガーまで追加しました。トリガーのタイミングは、mLP群が卵胞成熟度(≥14 mm卵胞に対する≥18 mm卵胞の比率が50%以上)で、GnRHアンタゴニスト群が≥17 mm卵胞2個以上または≥18 mm卵胞1個の到達時点で判定しました。トリガーは両群ともデュアルトリガー(hCG 10,000 IU + GnRHアゴニスト0.1 mg)をトリガー日に投与しました。卵胞モニタリングは3D自動卵胞計測(Voluson E8)による連日超音波と定期的なホルモン測定で行い、採卵はトリガー後34〜36時間で実施しました。主要評価項目は累積臨床妊娠率(CCPR)と累積出生率(CLBR)で、full analysis setとper-protocol set(PPS)の双方で解析されました。なお目標症例数は580人でしたが、COVID-19の影響で2023年2月に318人で組み入れを中止しており、事後検出力は81.1%でした。
結果
Full analysis setでは、CCPR(32.1% vs 34.0%; RR 0.94, 95% CI: 0.69–1.29)およびCLBR(24.5% vs 22.6%; RR 1.08, 95% CI: 0.73–1.61)は両群で同等でした。PPSでもCCPRは同等でした(33.3% vs 36.0%; RR 0.93, 95% CI: 0.68–1.27)。mLP群はGn投与日数が有意に短く(6.6 ± 2.8 vs 9.4 ± 2.1日, p<0.0001)、総Gn投与量も少量でした(2006.0 ± 797.3 vs 2652.8 ± 657.7 IU, p<0.0001)。ただしmLPではGn開始前にレトロゾールを2〜6日目に投与しており、AI使用期間を含めた総卵巣刺激期間はこの日数差ほど短縮しない点に留意が必要です。。mLP群はトリガー日内膜厚が薄く(9.2 ± 2.5 vs 10.3 ± 3.0 mm, p=0.001)、回収MII卵子数(2.4 ± 2.3 vs 3.1 ± 2.6, p=0.028)および利用可能受精胚数(2.0 ± 1.4 vs 2.7 ± 1.9, p<0.001)が少ない結果でした。
新鮮胚移植の実施割合は、利用可能胚を有した患者のうちmLP群77.7%(94/121)、GnRHアンタゴニスト群71.7%(99/138)で有意差はありませんでした(p=0.341)。移植胚数はmLP群1.3 ± 0.9個 vs GnRHアンタゴニスト群1.5 ± 0.7個(p=0.014)でした。新鮮胚移植の内訳は両群とも分割期胚が大半を占め、mLP群は97.9%(92/94)が分割期胚、GnRHアンタゴニスト群は99.0%(98/99)が分割期胚でした(p=0.615)。分割期胚移植のうち単一胚移植は23.4%(22/94)vs 25.3%(25/99, p=0.873)、2個移植は72.3%(68/94)vs 73.7%(73/99, p=0.892)と同等でした。
新鮮胚移植では、出生率(34.0% vs 22.2%; RR 1.53, 95% CI: 0.96–2.43)、臨床妊娠率(42.6% vs 30.3%; RR 1.40, 95% CI: 0.96–2.05)、生化学的流産率(22.0% vs 34.3%; RR 0.59, 95% CI: 0.29–1.21)、流産率(20.0% vs 26.7%; RR 0.75, 95% CI: 0.32–1.77)はいずれも非有意でした。一方、新鮮分割胚2個移植を受けたDOR患者では、mLP群で臨床妊娠率が有意に高くなりました(65.8% vs 36.4%; RR 1.81, 95% CI: 1.15–2.85)。デュアルトリガーを用いた両群とも、本集団の歴史的基準(1周期あたり15%未満)を上回る成績でした。
私見
胚数の乏しい高年齢・DOR集団では、胚盤胞培養・PGT-A依存(正倍数性胚盤胞1個に成熟卵子12.2個以上を要する; Fertil Steril. 2024;122:658-666)よりも即時的な新鮮胚利用を優先する妥当性が支持されます。凍結融解胚移植では群間差を認めず(CLBR 34.8% vs 27.5%, p=0.508)、poor responderでのfreeze-all戦略の限界を示す報告(Polyzos NP, et al. Fertil Steril. 2018)と整合します。
新鮮胚移植成績がレトロゾール群で悪くない機序としては、レトロゾールが卵胞期のテストステロン上昇(1.3→1.8 nmol/L)を介してAR依存的な卵胞成熟を促す一方、トリガー日E2を生理的範囲に保ち(516.2 vs 1428.7 pg/mL)早期の内膜成熟を防ぐという内分泌調節が想定されていますが、AR–FSH受容体相互作用やPBMCの免疫代謝リプログラミングに関する記述は自施設の未発表データに基づく仮説段階であることに留意が必要です。限界として、COVID-19の影響で目標症例数580に到達できず(実登録318)、サブグループ解析の検出力が限られる点、非盲検デザインである点(ただしアウトカム評価者・統計家は盲検化)が挙げられています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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