当院の男性不妊症診療について
当院では生殖医療専門医(泌尿器科)、泌尿器科 小宮顕部長が中心となって男性パートナーの診療を担当し、妊活のアドバイスをいたします。精子機能についての特殊な検査も実施しています(亀田IVFクリニック幕張にて月曜日から土曜日まで実施可能)。生活習慣の修正と健康管理をまず第一に、カップルで受診して夫婦で一緒に妊活に取り組みましょう。
男性不妊とは
卵子と精子が出会い受精することで、生命が誕生します。そのためには、勃起して十分量の運動精子がパートナーの体内で射精されることが必要です。男性不妊症とは、この過程に問題を認める状態のことを示します。不妊症の原因は約半数が男性側にも原因があると言われています。
男性不妊症も女性の治療と同様、問診後に精液検査やホルモン採血、精巣超音波検査などを行い、不妊の原因を特定し、治療を行っていきます。男性不妊の専門的な治療は泌尿器科の医師が担当します。
精子の問題
男性不妊症の9割以上は造精機能の問題が原因であるとされています。精液所見によって、精子の数が減っている乏精子症、運動性が悪い精子無力症、さらに重くなると精子が全くいない無精子症に分類されます。精子の問題の原因として最も多いのは精索静脈瘤ですが、多くは原因不明です。無精子症であっても、後述する精巣内精子採取術(TESE)などの治療法があります。
図1. 精子の動く様子(4倍速)
図2. 精子の高倍率顕微鏡での写真

男性機能の問題
勃起の問題(ED)、射精の問題に分類されます。性文化の多様化や晩婚化、そして不妊治療自体の心理的負担(排卵日に失敗できないというプレッシャーなど)から男性機能の問題も最近では増えています。これらに関しては薬物療法をまず行いますが、うまくいかない場合には人工授精などを考慮する必要があります。
不妊の男女別の原因について(Comhaire FH et al, 1996)

不妊男性では他の疾患リスクも高い
- 精巣癌のリスクが高い(2015年の湯村班の日本での男性不妊症症例の調査では日本では0.23%、健常人に比べ数十倍高い)
- その他の悪性腫瘍のリスクも高い(Eisenberg M at al., J Urol. 193:1596, 2015)
- うつ病や糖尿病、虚血性心疾患のリスクも高い(Eisenberg M et al, Fertil Steril. 103:66, 2015)
- 精液所見(精子の数や運動性、形)が悪いと生存率が低下(Eisenberg M et al., Hum Reproduction, Vol.29, No.7 pp.1567–1574, 2014)
といったことがあります。
カップルで受診し、健康に留意して夫婦で一緒に妊活に取り組みましょう。
男性不妊症の原因
以下のようなものがあります。(平成27年度厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業 我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究より)
原因不明(病的な原因なし)の造精機能障害(42.1%)
精索静脈瘤(精巣の周りの血管の異常、30.2%)
染色体異常(4.4%)
薬剤性(1.8%)
勃起障害(6.1%)
射精障害(7.4%)
閉塞性精路障害(精巣でつくられた精子が、外に出てくる経路の閉塞, 3.9%)
そのほかホルモン異常や亜鉛摂取不足など
一方、精液中に精子を認めない無精子症は16.5%です。
男性不妊症と関連するとされる生活習慣
以下の生活習慣には、気をつける必要があります。特にタバコや陰嚢の温度を上げる習慣はすぐに改善しましょう!
タバコ
過度のアルコール摂取、不適切なドラッグ服用
サウナ、長風呂
ブリーフ、ビキニ(密着した下着)
ラップトップパソコンの膝の上での使用
長時間の自転車、バイク
不規則な生活、睡眠不足
AGA治療薬(男性ホルモン抑制作用のある男性型脱毛症治療薬)
放射線暴露
性交渉の回数が少ない(長い禁欲期間)
亜鉛摂取不足
肥満(BMI>25)
図3. 陰嚢温度上昇と精液所見の悪化について

男性不妊症外来ですること
アンケート・問診
まず、アンケート、問診にて以下のようなことを伺います。
- 子作りをしている期間、お子様がいらっしゃるかどうか
- これまで治療した病気について(おたふく、停留精巣、鼠蹊部の手術、抗悪性腫瘍薬、放射線治療、高温環境、下垂体や泌尿器科臓器の手術、最近の高熱の有無など)
- 併存している病気(尿路性器の異常、尿路感染症、慢性呼吸器疾患、睡眠時無呼吸、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害、神経障害、内分泌疾患、うつ、炎症性腸疾患、悪性腫瘍など)
- 使用している薬やサプリメント(排尿障害に対する薬物治療、男性型脱毛症治療薬、抗精神薬、抗うつ薬など)
- 嗜好歴/生活習慣や職業(喫煙、アルコール、サウナ、長風呂、ブリーフ、ラップトップPCの膝上使用、バイク、睡眠時間、夜勤の有無、デスクワークの有無など)
- これまでの検査や治療の内容
- パートナーの年齢や女性因子、女性側の治療内容
- 男性機能(勃起障害)についてのアンケート(SHIM)
泌尿器科での診察検査(泌尿器科の生殖医療専門医による)
一般的な検査
- 身長、体重、血圧の測定
- 腹部、外性器(陰嚢や陰茎)の視診、触診
- 精巣(睾丸)の体積の測定
- 陰嚢部超音波検査(精索静脈瘤や、精巣腫瘍の有無などのチェック)
- 採血(血球数、一般的な内臓機能の検査、脂質代謝、亜鉛濃度、性ホルモン、血糖、感染症など)
- 精液検査(精液量、精子運動率、精子濃度):SMAS(株式会社ディテクト)という精子運動解析装置を用いており、精子の運動性も含めて細かく分析することができます。
図4. 精液検査の下限基準値

泌尿器科での特殊な検査・高度精子機能検査
- 精子を認めない場合
染色体検査、Y染色体の微小欠失検査(保険適用) - 高度精子機能検査(保険適用外で自費診療)
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クルーガーテスト
精子形態について細かく調べる検査です。精子を染色後、顕微鏡で観察を行い、正常の形態の精子の割合を算出します。
図5. 正常形態精子と形態異常精子

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MiOXSYS(株式会社ナカメディカル)を用いた精液の酸化ストレステスト(保険適用外)
酸化ストレスは、男性不妊症の最も重要な機序の一つです。原因不明の精子形成障害や精索静脈瘤などで上昇すると言われています。この検査は精液中の酸化ストレスの度合いを測定できます。この結果が男性不妊症の診断や治療方法の選択の際にも用いられます。精液の液状化が不良の場合は測定できないことがあります。
抗酸化作用を持つサプリメントを使用した方が良いかの一つの指標になります。 -
Halosperm(Halotech社)を用いた精子クロマチン分散化試験(Sperm Chromatin Dispersion TEST、精子DNA損傷を調べる検査、保険適用外)
精子が何らかのストレスを受けることで、遺伝情報である精子DNAが損傷することがあります。この検査では、形態検査ではわからない、精子DNAについて調べます。精子に特殊な処理を行うと、精子DNAが損傷しているか区別することができ、どの程度の割合で精子のDNAが損傷しているか調べます。DNAが断片化している精子の割合が高い場合、特に30%を超えると、より高度な治療、体外受精を早めに検討した方が良いと考えられます。
図6. 精子クロマチン分散化試験

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クルーガーテスト
精子形態について細かく調べる検査です。精子を染色後、顕微鏡で観察を行い、正常の形態の精子の割合を算出します。
当クリニックにおける精液検査の結果から
精液検査(2019年7月から2023年3月)の結果、多くの患者さまで異常所見を認めました。
図7. 当院受診例の精液検査結果

髙柳ほか、日本受精着床学会雑誌 2024年掲載
当院における主な男性不妊症の治療の紹介
※女性側の治療(タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精など)も並行して行っていただいております。
原因に関わらず、生活習慣修正や併存疾患の治療をおすすめします。ご夫婦でお互いの状態を理解して、支え合って取り組むことが重要です。
造精機能障害のある場合
原因不明の場合:抗酸化サプリメント、漢方薬など
亜鉛欠乏症:亜鉛補充(ノベルジン、亜鉛サプリメント)
当院の解析では16.2%の方が、亜鉛が不足していました。内分泌異常:ホルモン補充療法
乏精子症:クロミッド、漢方療法
高度乏精子症:精子凍結
酸化ストレス高値:抗酸化サプリメント
無精子症
- 精巣内精子採取術(conventional TESE、micro-TESE; 当院または亀田総合病院にて実施。顕微受精も必要です。)
- 精路再建術(実施施設や連携施設に紹介としています。)
精索静脈瘤
顕微鏡下精索静脈瘤手術
鴨川市の亀田総合病院で保険診療にて実施しています。幕張にて手術日を決定し、術前検査、手術の説明、術後のフォローをしています。千葉大学医学部附属病院、桐友クリニック新松戸などにも紹介しています。麻酔や治療日程、費用は施設によって異なります。
勃起障害
シアリス、バイアグラ(条件が整えば保険適用)
射精障害
三環系抗うつ薬、精巣内精子採取術、尿中精子回収
染色体異常
遺伝カウンセリング(臨床遺伝専門医により実施されます。保険適用外)
悪性腫瘍
精子凍結(がん生殖医療を含めた妊孕性温存治療、保険適用外)
まず生活改善から!
まず取り組むべきは生活習慣の改善です。
生活習慣とその修正指導の効果(小宮顕ほか、Heliyon 2023)
2018年5月から2020年11月までに亀田IVFクリニック幕張の男性不妊症外来を受診した402例(年齢の中央値35歳)での解析結果
多くの方が精液所見を悪化させうる生活習慣を持っていました。

泌尿器科学的原因

その他の医学的原因

生活習慣修正指導だけでも精液所見は改善していました。

図8. 生活習慣指導による精子運動率、精子濃度改善

図9. 生活習慣指導による総運動精子数、精子DNA断片化改善

精索静脈瘤の場合は手術を考慮してください!
体外受精がうまくいかなかったら、そしてまだ泌尿器科受診していなかったら、静脈瘤のチェックが必要です。
図10. 精索静脈瘤手術の効果

泌尿器科受診により、出生率が改善
図11. 泌尿器科受診と出生率

※これらの治療成績には、産婦人科的治療(タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精)を行った方も含まれています。お二人で協力して積極的に取り組んだ結果とも言えます。



