反復着床不全とは
生殖補助医療(ART)において、「妥当と考えられる胚移植を繰り返し行っても着床や妊娠が成立しない状態」を反復着床不全(RIF: Repeated Implantation Failure)と呼びます。
定義と診断基準
複数回良好胚を戻しても着床しない状態とされ、さまざまな基準があります。2023年のESHREワーキンググループは、RIFを「妥当と考えられる胚移植を繰り返し行っても着床・妊娠反応が得られない状態」と定義しています。具体的には、個々の患者さまで累積着床予測確率が60%を超えても妊娠が成立しない場合に、追加検査や介入を考慮することが推奨されています。
一方で、連続した正倍数性胚(正常な染色体数を持つ胚)移植により累積出生率が95%に達するとの報告もあり、真の反復着床不全はまれであるとの見解もあります。
原因
反復着床不全は単一疾患ではなく、多因子が関与する症候群的概念です。
主な要因には以下が挙げられます。
- 胚要因(染色体異数性を中心とした胚質)
- 子宮内膜因子(内膜菲薄、慢性子宮内膜炎、子宮筋腫・ポリープ・癒着などの形態異常、内膜胚受容期のシフト)
- 免疫因子(NK細胞異常、Th1/Th2バランスの破綻など)
- 凝固・血流因子
- 着床に必要なサイトカインの欠如 など
また、「不育症の提言2025」にも示されているように、反復着床不全と不育症は異なる病態です。
そのため、不育症と同じ検査を行ったり、同様の治療を適用したりすることは適切ではなく、過剰検査・過剰介入には注意が必要です。
反復着床不全の検査について
① 国内ガイドライン(生殖医療ガイドライン2025)での推奨
子宮鏡検査
CQ9・CQ41にて、器質的病変を認めた場合の治療有効性が記載されています。
Th1/Th2比測定
CQ43にて、検査および介入の有効性が記載されています。
子宮内膜胚受容能検査(先進医療)
CQ39にて、検査および介入の有効性が記載されています。
子宮内細菌叢検査(先進医療)
CQ40にて、検査および介入の有効性が記載されています。
② 海外ガイドライン(ESHRE 2023)での推奨
推奨される検査
生活習慣の見直し、子宮内膜厚の再評価、抗リン脂質抗体の評価
考慮しうる検査
夫婦染色体核型検査、3D超音波/子宮鏡検査、子宮内膜機能検査、慢性子宮内膜炎検査、甲状腺機能評価、プロゲステロンレベル測定
推奨されない検査
末梢NK細胞検査、子宮NK細胞検査、ビタミンD検査、マイクロバイオームプロファイリング、遺伝性血栓症スクリーニングなど
反復着床不全の治療について
1. 外科的治療
子宮腔内のポリープ、中隔、筋腫、癒着などの形態的異常を手術で修復することは、最もエビデンスのある治療の一つです。
2. 胚質改善・選択戦略
着床前胚染色体異数性検査(CQ37に記載)や複数胚移植などが提案されています。
ただし、若年層や反復流産のない患者さまにおける有効性は限定的であり、全例に適応すべきかは議論が続いています。
3. 子宮内膜・局所治療
高濃度ヒアルロン酸含有培養液(CQ38)は保険適用です。
また、子宮内膜刺激胚移植法(SEET法、CQ42)や二段階胚移植(CQ46)は先進医療として実施可能です。
一方で、hCG注入療法、G-CSF注入療法、PRP(多血小板血漿)療法、PBMC(末梢血単核球)注入などは、いずれも「有望だが未確立」の段階にあり、保険・先進医療の適用外です。
子宮内膜スクラッチ(CQ44)は、反復着床不全に対する有効性が現時点では定まっていないとされています。
4. 免疫学的治療・薬物療法
CQ45では、低用量アスピリン・グルココルチコイド、ヘパリン、タクロリムス、ヒドロキシクロロキン、免疫グロブリン、脂肪乳剤、TNF阻害薬、ビタミンDなどの使用、そして慢性子宮内膜炎に対する抗菌薬投与が言及されています。
しかし、いずれも「有望だが未確立」であり、保険・先進医療の対象ではありません。
ESHREガイドラインでも、慢性子宮内膜炎に対する抗菌薬投与は「考慮しうる介入」とされる一方、その他の免疫療法・抗凝固療法はエビデンスが確立されておらず推奨されていません。
5. 心理的サポートの重要性
反復着床不全患者さまは、繰り返す不成功により大きな精神的負担を抱えることがあります。心理的支援やカウンセリングを体系的に導入することは、治療継続や生活の質の維持に不可欠です。
まとめ
反復着床不全は、ARTにおける最も困難な課題の一つであり、定義・原因・治療はいまだ確立途上にあります。私たちは、患者さま一人ひとりの状況に応じて、最適な治療プランをご提案いたします。ご不明な点やご心配なことがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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