
着床前遺伝学的検査 PGT-A/SR
PGT-A/SRは胚の染色体異常を次世代シーケンサーで解析し、正常胚を選んで移植する先進医療です。着床不全や流産を繰り返す方、染色体構造異常を持つ方に適応され、妊娠率向上と流産リスク低減が期待されます。
着床前遺伝学的検査(PGT-A/SR)とは
ヒトの細胞には遺伝情報をもつ46本の染色体が存在します。1番から22番までの常染色体が2本ずつと、性染色体が2本含まれます。受精胚は精子と卵子が染色体を23本(一倍体)ずつ持ち寄って46本(二倍体)となります。そのとき、受精や細胞分裂の過程における何らかの理由で、染色体が1本多くなったり少なくなったり(数の異常)、一部が欠けたり過剰になったり(構造の異常)、あるいは69本など(倍数性の異常)になったりすると、着床不全や流産の原因となります。
PGT-A(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy)は、上記のような胚の染色体量の異常を検出し、染色体量が正常の胚(euploid胚)を選んで移植することのできる技術です。
また、カップルのどちらかが均衡型転座などの染色体構造異常を持つ場合、胚の染色体には過不足がある構造異常(不均衡型転座など)をきたしやすくなります。結果として不育症の原因となりうるため、PGT-SR(Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangement)として実施し、胚の染色体量の異常を検出することができます。
着床前遺伝学的検査(PGT-A/SR)に関する見解/細則
日本産科婦人科学会の「不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査に関する見解」、「不妊症および不育症を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)に関する細則」、および「不妊症および不育症を対象とした着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)に関する細則」に基づき、同学会の認定施設にて実施できます。
下記の「対象となる方」と「検査結果と判定」は上記細則より引用、作成しています。
対象となる方
PGT-A
- 反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する不妊症の夫婦
- 反復する流死産の既往を有する不育症の夫婦
- ただし、夫婦のいずれかに染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている場合を除く
PGT-SR
- 夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている不育症(もしくは不妊症)の夫婦
- ただし、妊娠既往もしくは流死産既往の有無は問わない
検査方法
PGT-AとSRの検査の方法は同じですが、PGT-SRでは事前に臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが必要です。
- 通常の体外受精または顕微授精で受精胚を作成し、胚盤胞期まで培養を行います。
- 胚盤胞の外層(栄養外胚葉)から細胞を5〜10個採取(生検)します。(以前は8細胞期での単一細胞生検も行われていましたが、現在では胚盤胞の栄養外胚葉の細胞を採取するのが標準です。)
- 採取した細胞を凍結して検査施設へ移送し、NGS(次世代シークエンサー)やアレイCGHを用いて解析します。結果が出るまで胚本体は凍結保存しておきます。
- 結果は約3〜4週間後に報告され、結果に基づいて移植胚を検討します。
検査結果と判定
結果はA〜Dの4段階で報告されます。特別な場合を除いて性別は開示されません。
A判定
- 常染色体が正倍数性(均衡型転座を含む)である胚です。
- 移植胚候補です。高い妊娠率と低い流産率が期待され、単一胚移植の方針となります。
B判定
- 常染色体の数的あるいは構造的異常を有する細胞と常染色体が正倍数性細胞とのモザイクである胚です。
- モザイク度(染色体異常細胞の割合)や構造的異常の部位はまちまちです。
- 臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングのもとに移植するかどうかを検討されます。
C判定
- 常染色体の異数性もしくは構造異常(不均衡型構造異常胚など)を有する胚です。
- 生児獲得の可能性が低く、原則として移植は推奨されません。
D判定
- 技術的な理由などにより解析結果の判定が不能であった胚です。
- 再検査が検討されます。
検査のメリット
- 移植あたりの高い妊娠率
- 染色体異常による流産リスクの低減 → 妊娠、出産までの時間を短縮できる可能性
- 通常の生殖補助医療による出生児と比較して、先天性疾患のリスクは上昇しない
検査のデメリット
- 採卵をしても検査をできる胚が発育しない可能性
- 検査の結果、移植できる胚が得られない可能性
- 検査をしなければ生まれてくることができたはずの胚が除外されてしまう可能性 → PGT-Aを実施しても、実施しなかった場合に比べて累積出生率は上昇しない
費用について
保険適応外の検査であり、採卵や胚移植を含めて全額患者さま負担となります。
検査は胚一個あたり85,000円です。
注意事項
検査の精度や有効性は現在も検討が進められています。当院では患者さまの状況に応じて個別に治療の適応を判断し、十分な説明を行った上で実施いたします。
代替検査として、血液凝固や免疫学的検査など、胚染色体以外の検査もあります。患者さま一人ひとりの状況に応じて、最適な治療方法をご提案いたします。