Treatments診療内容
Basic Infertility Treatments

一般不妊治療
(タイミング法・人工授精)

不妊治療は原因が見つかれば原因への治療、原因不明には段階的に治療を進めることが一般的で、まず一般不妊治療から開始します。一般不妊治療には、タイミング法、人工授精が含まれ、これらの治療で妊娠に至らない場合に体外受精などの生殖補助医療(ART)へのステップアップを検討します。

不妊の主な原因

不妊の原因は複雑で、男女双方に関わる場合も多くあります。主な原因として、排卵因子卵管因子男性因子が挙げられます。これらの原因を正確に把握することで、最適な治療法を選択することができます。

排卵因子

排卵因子は、卵巣からの排卵に関わる問題です。代表的なものとして若年女性に多い多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovarian syndrome)があります。その他にも、視床下部性排卵障害、下垂体性排卵障害、卵巣機能低下症、高プロラクチン血症なども排卵因子に含まれます。これらの疾患では、ホルモンバランスの乱れにより正常な排卵が阻害されます。
排卵因子の治療では、排卵誘発剤の使用超音波検査による卵胞発育のモニタリングが有効です。クロミフェン、レトロゾール、ゴナドトロピンなどの薬剤を使用し、患者さまの状態に応じて最適な治療法を選択します。定期的な超音波検査により卵胞の成長を観察し、適切なタイミングで排卵を促すことで、妊娠率の向上を図ります。

卵管因子

卵管因子は、卵管の閉塞や癒着により、卵子と精子の出会いや受精卵の子宮への移動が妨げられる状態です。クラミジア感染症、骨盤内感染症、子宮内膜症、虫垂炎などの既往により卵管に炎症が起こり、閉塞や癒着が生じることがあります。診断には卵管疎通性検査を行います。
卵管が完全に閉塞している場合には、卵管鏡下卵管形成術(FT)による治療を検討します。これは内視鏡を用いた低侵襲手術で、閉塞した卵管を開通させる治療法です。ただし、卵管の損傷が高度な場合や、FTでも改善が期待できない場合には、体外受精へのステップアップが必要となります。

男性因子

男性不妊は不妊症の約半数に関与しており、決して見過ごすことのできない重要な因子です。精液検査により、精子濃度、運動率、正常形態率などを評価し、男性不妊の有無を判定します。軽度から中等度の男性不妊に対しては、人工授精が有効です。しかし、極端に運動精子が少ない場合(重度の乏精子症、精子無力症など)には、体外受精・顕微授精の適応となります。顕微授精では、顕微鏡下で1個の精子を直接卵子に注入するため、精子の数や運動能力に関わらず受精が可能です。
男性不妊の治療には、生活習慣の改善、薬物療法、手術療法なども含まれ、泌尿器科と連携した総合的なアプローチが重要です。

タイミング法

タイミング法は、排卵日を予測し、その時期に合わせて性交渉を行う最も基本的な不妊治療法です。自然な妊娠メカニズムを活用した治療で、身体的負担が少なく、多くのカップルが最初に試みる治療法です。

月経周期が28日周期程度で規則的な場合は、月経開始日から数えて14日目頃に排卵が起こります。ただし、個人差があるため、複数の方法を組み合わせて排卵日を予測することが重要です。
基礎体温表では、低温相から高温相に移る前後が排卵期にあたります。毎朝起床時に基礎体温を測定し、グラフ化することで排卵の有無や時期を把握できます。ただし、基礎体温は体調や環境により変動するため、他の方法と併用することが推奨されます。
超音波検査では、卵胞径、内膜厚を測定します。卵胞径が18-20mm程度に成長した時点で1-2日後の排卵が予想されます。使用する薬剤、個人差があるため患者さまごとの最適な排卵日を検証していきます。
尿中排卵キット(排卵検査薬)では、排卵を引き起こすLH(黄体化ホルモン)の急激な上昇を検出できます。LHサージの検出により、1-2日以内の排卵を予測できます。

妊娠しやすい時期

性交渉は排卵の5日前から排卵当日までが妊娠しやすい時期とされています。これは、精子が女性の体内で約5日間生存可能であり、卵子が排卵後約24時間受精能力を保つためです。
特に、排卵2-3日前の性交渉が最も妊娠率が高いとされています。毎日の性交渉が困難な場合は、1日おき程度の頻度でも十分な効果が期待できます。

Wilcox AJ et al. N Eng J Med 333:1517-21, 1995

月経不順(排卵障害)のある場合には、まず排卵の有無を確認し、排卵障害の原因を特定することが重要です。排卵誘発剤の使用と超音波検査による卵胞発育のモニタリングにより、規則的な排卵を促し、妊娠率の向上を図ります。
排卵誘発剤には内服薬(クロミフェン、レトロゾール)と注射薬(ゴナドトロピン)があり、患者さまの状態に応じて選択します。治療中は定期的な超音波検査とホルモン検査により、卵胞の発育状況を詳しく観察し、適切なタイミングで排卵を促します。

人工授精

人工授精は、タイミング法と同様に排卵日を予測した上で、洗浄・濃縮した精液を柔らかいカテーテルで子宮内に直接注入する治療法です。

人工授精の適応

人工授精は以下のような場合に適応となります。

  • 軽度から中等度の男性不妊(精子濃度や運動率の低下)
  • 頸管粘液不全(精子が子宮内に入りにくい状態)
  • 性交障害(勃起不全、射精障害、性交疼痛など)
  • 原因不明不妊
  • タイミング法で妊娠に至らない場合

人工授精の流れ

精液の採取は、院内の専用採精室で行うか、自宅で採取して2時間以内に持参していただきます。精液の処理には約1-2時間かかります。この間に、密度勾配遠心法や洗浄法などにより運動精子を回収し、濃縮します。
処理後の精液は、柔らかいカテーテルを用いて子宮内に注入します。注入手技自体は数分で終了し、痛みはほとんどありません。

クロミフェンやレトロゾールといった排卵誘発剤を併用した人工授精は、タイミング法に比べて累積妊娠率が高いことが多くの研究で報告されています。そのため、当院では患者さまの状態に応じて排卵誘発剤を導入しています。
排卵誘発剤により複数の卵胞が発育することで、妊娠の可能性が高まる一方で、多胎妊娠のリスクが増加します。双胎妊娠は単胎妊娠に比べて早産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群などの合併症リスクが高いため、複数の卵胞が発育した場合には慎重に対応しています。具体的には、超音波検査で18mm以上の卵胞が3個以上発育した場合は、その周期の治療をキャンセルし、薬剤の調整を行います。

人工授精の成功率

人工授精の妊娠率は1回あたり約5-10%で、年齢により大きく左右されます。累積妊娠率は3-4回で約20-30%、6回で約30-40%程度です。一般的には3-6回程度の人工授精で妊娠に至らない場合、体外受精へのステップアップを検討します。

治療成績

年代別の妊娠率を示します。

いずれも2-3周期までの治療で妊娠する方が多く、多くても5-6周期までで不妊治療のステップアップをする方がほとんどです。
30代後半では妊娠率の低下が目立ち始めるため、2-3周期でステップアップを検討することも少なくありません。患者さま一人ひとりの状況に応じて、最適な検査・治療プランをご提案いたします。

個別化した治療計画

患者さま一人ひとりの状況に応じて、最適な検査・治療プランをご提案いたします。年齢、不妊期間、これまでの治療歴、検査結果、ご夫婦の希望などを総合的に考慮し、最も適切な治療法を選択します。
治療の各段階で十分な説明を行い、患者さまが納得された上で治療を進めることを大切にしています。また、治療の効果が思わしくない場合には、治療方針の見直しや他の選択肢についても積極的にご相談いたします。