帝王切開と次回妊娠への影響
帝王切開は、母体や赤ちゃんの安全を守るために必要不可欠な手術です。逆子や前置胎盤、赤ちゃんの心拍が低下した場合など、経腟分娩が困難または危険と判断される状況で実施されます。しかし、帝王切開後の子宮には瘢痕が残るため、次回妊娠時にはいくつか注意すべき点があります。
特に「帝王切開子宮瘢痕症(CSDi)」と「分娩時子宮破裂」は、帝王切開の既往がある方が知っておくべき重要な合併症です。これらについて分かりやすく解説します。
生殖補助医療と帝王切開
生殖補助医療(体外受精)による妊娠では、自然妊娠と比較して帝王切開率が高くなることが知られています。これは複数の要因が関与しており、まず体外受精を受ける患者さんの背景として、高齢妊娠や不妊期間の長期化といったリスク因子を有することが挙げられます。また、貴重な妊娠という心理的側面から、医師・患者双方が安全性を重視し、分娩様式の選択において慎重になる傾向があります。
さらに、生殖補助医療妊娠では前置胎盤や癒着胎盤などの胎盤異常の頻度が高く、これらの合併症により帝王切開が必要となるケースが増加します。多胎妊娠の割合も自然妊娠より高く、これも帝王切開率上昇の一因となっています。患者さまには生殖補助医療による妊娠の特性を事前に説明し、安心して妊娠・分娩に臨んでいただけるよう配慮することが求められます。
帝王切開子宮瘢痕症(CSDi)について
帝王切開子宮瘢痕症(Cesarean Scar Disorder: CSDi)とは、帝王切開後の子宮瘢痕部に生じた陥凹(くぼみ)が原因で、月経終了後の褐色帯下の持続、月経困難症、慢性骨盤痛、不妊症などを引き起こす病態です。
陥凹部に液体が貯留することで、続発性不妊症の原因となることもあります。
診断
診断は、問診と経腟超音波検査により行います。
超音波で陥凹の深さが2mm以上あり、下記の主症状1つ以上、または副症状2つ以上を伴う場合にCSDiと診断されます。必要に応じて子宮鏡検査やMRIを行い、陥凹の詳細を評価します。
主症状
- 月経後に続く点状出血
- 子宮出血時の痛み
- 胚移植時のカテーテル挿入困難
- 子宮内貯留液を伴う原因不明の続発性不妊
副症状
- 性交痛
- 異常帯下
- 慢性骨盤痛
- 性交回避行動
- 悪臭を伴う異常子宮出血
- 原因不明の続発性不妊
- 体外受精の不成功例
- ネガティブセルフイメージ
- 日常生活・レジャー活動時の不快感
治療
CSDiの治療には、対症療法、ホルモン療法、手術療法があります。
すべての症例で治療が必要なわけではなく、症状の程度や妊娠希望の有無を考慮して方針を決定します。CSDiによる着床不全が疑われる場合、手術によって妊娠成績が改善した報告もあります。
分娩時子宮破裂について
子宮破裂とは、妊娠中や分娩時に子宮壁が裂けてしまう状態を指します。
帝王切開の既往がある方では、前回手術による瘢痕部分が妊娠によって引き伸ばされ、分娩時の強い子宮収縮によって破裂するリスクがあります。
帝王切開の既往がある方が次回妊娠で経腟分娩を試みる場合(TOLAC: Trial of Labor After Cesarean)、子宮破裂の発生率は約0.2〜0.7%と報告されています。
頻度としては高くありませんが、発生すると母児ともに重篤な状態となる可能性があるため、慎重な管理が必要です。
帝王切開経験のある女性の分娩方法
帝王切開の既往がある方の次回分娩方法は、予定帝王切開と経腟分娩(TOLAC)があります。患者さまの状況や希望、医療施設の体制などを総合的に考慮して分娩方法を決定します。実際には予定帝王切開が多く行われています。
まとめ
帝王切開は、母児の命を守るための重要な手術であり、適切に行われれば非常に安全です。ただし、帝王切開後の次回妊娠では、以下の2点に注意が必要です。
- 帝王切開子宮瘢痕症(CSDi):月経異常や疼痛、不妊症などを引き起こすことがあり、症状がある場合は適切な診断と治療によって改善が期待できます。
- 分娩時子宮破裂:頻度は低いものの、発生すると重篤な状態になる可能性があるため、分娩方法の選択や分娩中の慎重な管理が重要です。
当院では、帝王切開の既往がある方に対する不妊検査・治療、妊娠時の周産期管理などについても積極的に対応しています。患者さま一人ひとりの状況に応じて、最適な医療を提供できるよう努めております。



