Treatments診療内容
Egg Retrieval

採卵

採卵とは

採卵は、卵巣刺激により発育した卵胞から卵子を回収する手術です。経腟超音波ガイド下に専用の採卵針を用いて行います。採卵による卵子回収率は、穿刺卵胞数あたりで70~80%程度です。

採卵の準備

採卵前の準備

採卵2日前

  • 卵子の成熟を促すためにhCG注射またはGnRHアゴニスト点鼻を夜間に実施
  • このタイミングを逃すと採卵前に排卵してしまう可能性があります

採卵前日

  • 24時以降は禁飲食
  • 十分な休息をとってください

採卵当日

  • 静脈ルートの確保とバイタルモニターの装着
  • 手術着への着替え

精液の準備

禁欲期間

  • 1〜4日間が最適(精子のコンディションが良くなります)
  • 長すぎても短すぎても精子の状態に影響します

採精方法

  • 院内採精:プライベートな採精室をご用意しています
  • 自宅採精:採精後2時間以内に持参していただきます

精子凍結について

  • 当日来院や精子持参が困難な場合は事前に精子凍結も可能
  • 選定療養での精子凍結:1本22,000円

麻酔について

安全に採卵を行うため、以下の麻酔を使用します。

局所麻酔(傍頸管ブロック)

使用薬剤

リドカイン1.0%を使用

副作用・リスク

  • 局所麻酔中毒
  • 舌のしびれ、耳鳴り
  • 施術前に局所麻酔アレルギーの既往歴を確認いたします

静脈麻酔

使用薬剤

プロポフォール1%を使用

軽度の副作用

  • 悪心・嘔吐
  • のどの痛み
  • 声のかすれ
  • 歯・口唇の損傷
  • 誤嚥性肺炎
  • 血圧低下

重篤な合併症(発症はまれです)

  • 悪性高熱
  • 呼吸停止
  • 低酸素血症
  • アナフィラキシーショック

安全管理

麻酔中は点滴ルートを確保し、血圧計・心電図・パルスオキシメーターで安全管理を行います。これらのリスクや緊急時に備え、十分な設備と体制を整えています。

採卵手術の流れ

1. 経腟超音波検査

  • 子宮内膜厚を測定
  • 子宮の方向性を確認

2. 腟内の準備

  • 腟鏡診を行い、腟内を観察
  • 生理食塩水で腟内を洗浄(細菌の混入を防止)

3. 採卵の実施

  • 超音波ガイド下で採卵針により卵胞液を吸引
  • 血管、腸管、膀胱を穿刺しないよう注意して実施

4. 卵子の回収と培養

  • 採取した卵子を適切な培養環境のインキュベーターへ移動
  • 直ちに適切な培養環境で管理

5. 検体の処理

  • 必要に応じて検体をクール便で検査会社へ発送

採卵に伴うリスクと合併症

腟壁出血

頻度と程度

  • 最も多い合併症ですが、ほとんどの場合止血可能
  • 2時間を超える圧迫止血を要する症例:0.1%

腹腔内出血

出血量と頻度

  • 重篤な腹腔内出血の頻度:0.1%未満
  • まれに開腹手術や腹腔鏡下手術が必要な場合があります

骨盤内感染症(PID)

発症について

  • 発症頻度:0.3~0.6%(発症はまれです)
  • 卵巣感染、卵管感染、腹膜炎を含む
  • 抗菌薬である程度予防可能

リスクファクター

  • PIDの既往
  • 子宮内膜症

予防策

  • 原則として採卵時にはチョコレート嚢腫の穿刺・吸引は行いません
  • 適切な抗菌薬の使用

その他のまれな合併症

  • 迷走神経反射:血圧低下、徐脈、ショック
  • 臓器損傷:膀胱損傷、腸管損傷、血管損傷
  • 卵巣茎捻転:腫大した卵巣がねじれて激痛が生じる

採卵後の注意事項

Immediate Post-Operative Care

  • 一定時間の安静と経過観察
  • バイタルサインの監視
  • 超音波検査で異常がないことを確認後にご帰宅
  • 疼痛管理

    痛み止めの使用

    NSAIDs坐薬(ジクロフェナクナトリウム坐剤)を必要に応じて使用
    ※喘息の既往がある場合は使用しません

    疼痛の程度

    • 採卵後の痛みはそれほど強いものではありません
    • 子宮内膜症がある方では痛みが強くなる傾向があります
    • 鎮痛剤で適切に対処いたします

採卵で起こりうること

採卵前のトラブル

  • 卵子が育たず採卵をキャンセル:当該月の治療を中止することがあります
  • 採卵前に排卵:採卵が中止になることがあります

採卵時のトラブル

  • 卵子回収率の低下:極端に卵子回収率が低いことがあります
  • 未熟卵が多い:卵子成熟率が低いことがあります
  • 卵子が採れない:卵子がひとつも採れない場合もあります

技術的な制約

穿刺困難な場合

以下の理由により一部の卵胞穿刺ができない場合があります。

  • 子宮筋腫
  • 卵巣腫瘍
  • 子宮内膜症
  • 癒着
  • 卵巣の位置

安全性の考慮

卵胞穿刺は可能でも合併症発生の可能性が高いと判断した場合は、一部の卵胞穿刺を行いません。そのため予定よりも採取できる卵子が少なくなることがあります。

まとめ

採卵は体外受精治療において重要な手術です。十分な安全管理のもとで実施いたしますが、医療行為である以上、避けられないリスクも存在します。万一合併症が発生した場合は、最善を尽くして対処させていただきます。
採卵に関してご不明な点やご心配なことがございましたら、遠慮なくお尋ねください。安心して治療を受けていただけるよう、丁寧にご説明いたします。