
卵巣刺激
卵巣刺激とは
卵巣刺激は、体外受精において良好な卵子を複数個採取するために行う治療です。通常の自然周期では月に1個の卵子しか排卵されませんが、卵巣刺激により複数の卵胞を同時に発育させることで、治療の成功率を向上させます。

刺激方法の種類
卵巣の反応は個人差があるため、AMH(抗ミュラー管ホルモン)や年齢や病態、その他のホルモン検査を参考に、患者さまに最適な刺激方法を選択します。
主な刺激法
調節卵巣刺激法
月経1〜3日目より刺激を開始し、複数の良好な卵子を得る方法
- ロング法:月経前からGnRHアナログで調節
- ショート法:月経開始と同時にGnRHアナログ使用
- アンタゴニスト法:卵胞発育後にGnRHアンタゴニスト使用
- PPOS法:プロゲスチンを使用した方法

使用薬剤
体外受精で使用される卵巣刺激薬剤は保険適用となっています。
主な薬剤
Gn製剤(hMG/FSH製剤)
直接卵巣に作用し、複数の卵胞発育を促進
- hMG(HMG注射用「F」):FSH:LH = 1:0.3
- uFSH(uFSH「あすか」):FSH:LH = 1:≦0.0053
- フォリトロピンアルファ(ゴナールエフ):FSH:LH = 1:0
- フォリトロピンデルタ(レコベル):FSH:LH = 1:0
- フォリトロピンベータ(フォリスチム):FSH:LH = 1:0
GnRHアナログ製剤
調節卵巣刺激と採卵タイミングの調整に使用
- GnRHアゴニスト(ブセレリン点鼻液)
- GnRHアンタゴニスト(ガニレスト皮下注、セトロタイド注射用)
クロミフェン・レトロゾール
内服薬として使用される排卵誘発剤
治療の流れ
- 月経1〜3日目より卵巣刺激の計画を立て、刺激方法に準じて薬剤投与を開始
- 定期的な超音波検査とホルモン検査で卵胞の発育をモニター
- 卵胞が適切なサイズ(17〜21mm程度)になったら採卵の準備へ
- 採卵2日前にhCG注射またはGnRHアゴニスト点鼻で最終成熟を促進

卵巣刺激に伴うリスクと合併症
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤により卵胞が過剰に発育し、排卵後に卵巣腫大、腹水貯留などを起こす症候群です。
症状
- 腹部不快感、悪心・嘔吐、下痢
- 乏尿、呼吸困難
- 重篤な場合:深部静脈血栓症、肺塞栓、脳梗塞
発症頻度
- 入院を要する中等症~重症例:0.8~1.5%
- OHSS発症時の静脈血栓症:0.8~2.4%
OHSSの発症に関与するリスクファクター
- 卵巣刺激前に参考にできるもの
- 年齢が35歳以下 痩せ型
- 多嚢胞性卵巣症候群の患者
- hCG投与時に参考にできるもの
- 卵胞数20個以上
- 血中エストラジオール値>4000pg/ml
- 黄体期以降に参考にできるもの
- hCGによる黄体刺激法
- 妊娠周期
予防策
- 卵巣の反応性に応じた適切な刺激法の選択
- 超音波検査による卵巣・腹水の定期的な確認
- 必要に応じた全胚凍結(採卵周期には移植しない)
- ドーパミン製剤(カベルゴリン)の使用
- GnRHアンタゴニスト製剤の使用
深部静脈血栓症・肺塞栓症
OHSS発症時やホルモン剤使用時に最も注意すべき合併症です。体外受精に関連した静脈血栓症の発生頻度は治療周期の0.1~0.2%程度ですが、OHSS発症例では0.8~2.4%へ上昇します。
予防のための注意事項
- 適度な水分摂取
- 禁煙の徹底
刺激方法と妊娠率の関係
刺激法の特徴に加えて、年齢や卵巣予備能などに差があることが推測されるため、一概にどの方法が優れているとは言えません。患者さまの状況に応じて最適な方法を選択いたします。
まとめ
卵巣刺激は体外受精治療の最初の重要なステップです。患者さまの年齢、卵巣予備能、過去の治療歴などを総合的に判断し、最も適した刺激方法を選択いたします。また、OHSSなどのリスクを最小限に抑えるよう、十分な監視のもとで安全に治療を進めてまいります。
ご不明な点やご心配なことがございましたら、いつでもお気軽にお尋ねください。