プレコンセプションケア

2025.03.01

父親のライフスタイルが、子供の体型に影響する?

研究の紹介

父親の健康的なライフスタイルおよびその個々の要素と小児の肥満との関連性

Associations between a paternal healthy lifestyle score and its individual components with childhood overweight and obesity.

父親の健康が子孫に影響することが少しずつ明らかになってきています。父方の肥満は、配偶子のエピゲノム(遺伝子の働きを調節する仕組みの一つ)を介して子孫における代謝障害と肥満のリスクとなる一方で、食事と運動はこれらのリスクを低下させることや、動物実験でも、オスに高脂肪および高糖質食を与えると子孫に代謝異常を引き起こすことが示されています(Huypens P, Nat Genet, 2016; McPherson NO, Am J Physiol Endocrinol Metab, 2015; Chen Q, Science, 2016)。
妊娠中の母親の健康的なライフスタイルや行動は、子どもの過体重および肥満(overweight and obesity、OWOB)のリスク低減と関連していることが示されています(Chen LW, BMCMed. 2021)。しかしながら、「父親起源の健康と疾病(Paternal Origins of Health and Disease、POHaD)」に関して、父親のライフスタイルが子どものOWOBに及ぼす潜在的な影響についての研究はほとんど行われていません。今回の研究は、父親の総合的な健康に関連するライフスタイルをスコア化して、そのスコアが子供の体型や肥満に影響するか検討したものです。

研究の要約

研究の目的

妊娠期における父親の健康的なライフスタイル要因を明らかにし、それらが個別および総合的に、子どものOWOBリスクとどのように関連するかを調査することがこの研究の目的です。

対象の方法

本研究の対象は、Lifeways Cross-Generation Cohort Study に参加した 295 組の父子のペアです。父親の健康的なライフスタイルスコア(healthy lifestyle score、HLS)は、以下の要素を基に算出しました。

  1. 高い食事の質(Healthy Eating Index-2015 の上位 40%)
  2. 身体活動ガイドラインの遵守(中強度から高強度の身体活動を 1 週間に 450 MET-分以上実施)
  3. 健康的な BMI(18.5-24.9 kg/m²)
  4. 非喫煙者であること
  5. アルコール摂取無または適度なアルコール摂取

このスコアは 0~5 の範囲で算出しました。
(各項目が当てはまれば1点、最高5点で、スコアが高いほどより健康的なライフスタイル持っていることになります。)

また、父親の HLS(およびその個々の構成要素)と、その子供のBMI およびウエスト・身長比(waist-to-height ratio、WHtR*)との関連を、5 歳および 9 歳時点で評価しました。すべての分析において社会的な背景因子を考慮して調整しました。

結果

5 歳および 9 歳の時点で、子どもの 23.5% および 16.9% がOWOB(過体重および肥満)と分類されました。HLS のデータが完全に揃っている 160 組の父子ペアのうち、45.0% の父親は HLS が 0 ~ 2 点と低く、不健康なライフスタイル要因を持っていると判断されました。
父親の HLS が低いことは、子供の OWOB のリスク増加とは有意に関連していませんでした。しかし、9 歳の時点において、父親の HLS が低いことは、子供のウエスト・身長比(WHtR; 中心性肥満の指標とされている)の増加と関連していました(0.46 ±0.05 vs. 0.42 ±0.09、P=0.020、β [95% CI] = 0.04 [0.01, 0.07])。

考察および結論

妊娠期において、約半数の父親が不健康なライフスタイル要因を持っていました。父親の健康的なライフスタイルスコア(HLS)が低いことは、9 歳時点での子供のウエスト・身長比(WHtR)の増加と関連していましたが、過体重および肥満(OWOB)のリスク増加とは関連していませんでした。

*WHtRについて

ウエスト・身長比(WHtR)は、ウエスト周囲径(WC)を身長で割ることで算出される指標であり、近年、中心性肥満を評価するための人体測定指標として注目を集めています。WHtR は簡便に使用でき、年齢による影響を受けにくい指標です。WHtR のカットオフ値として 0.5 が広く用いられており、性別や民族に関係なく適用可能で、6 歳以上の子どもにおける中心性肥満の普遍的な基準として一般的に受け入れられています(Yoo EG. Korean J Pediatr. 2016)。

筆者の意見

本研究では、父親のライフスタイルを食事、運動、BMI、喫煙とアルコールの嗜好といった要素で評価した結果、子どもの肥満との明確な関連は認められませんでした。また、父親のライフスタイルスコアが低い場合、子どもの WHtR(ウエスト・身長比)が有意に高いという結果が得られましたが、それでも WHtR は 0.5 以下であり、一般的に肥満とは判断されない範囲でした。ただし、子供の過体重や肥満の比率が高いのには驚きました。
本研究は、症例数が比較的少ないことや9歳までが対象であるため、対象者が増えたり、さらに子供が成長した場合に結果が変わる可能性があります。
今回は、父親のライフスタイルと子供の肥満との関連は示されませんでしたが、ライフスタイルの評価に用いた5つの項目(食事、運動、BMI、喫煙、アルコール)は、男性の妊活だけでなく健康維持においても重要な要素であることを忘れずにいていただきたいと思います。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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