
はじめに
睡眠の持続時間やタイミングは多くの生理機能に影響を与え、健康状態と密接に関連しています。睡眠の質/睡眠時間/睡眠時間のずれは、糖尿病や心血管疾患、がんのリスク増加と関連しています。生殖年齢女性においても、短時間睡眠は妊孕能低下や妊娠糖尿病と関連し、睡眠障害は早産との関連が示されています。さらに、夜勤労働は月経周期異常、不妊症、不育症と関連することが報告されています。本研究では、睡眠破綻が妊孕性と関連するかを検討しました。
ポイント
日常的な睡眠開始時刻と睡眠時間の変動性が大きい女性では、妊娠達成までの期間が長くなることが示されました。
引用文献
Zhao P, et al. Fertil Steril. 2025;124(1):113-20. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.01.019
論文内容
妊娠を希望する女性を対象として、睡眠破綻が妊孕性と関連するかを検討することを目的としたパイロット前向きコホート研究です。2015年2月1日から2017年11月30日にかけて、米国中西部の学術医療センターで妊娠を希望する183名の女性を募集し、睡眠情報を収集しました。曝露要因として、アクチグラフィー腕時計を2週間連続装着して睡眠と活動データを取得し、睡眠開始、終了、中間時刻、睡眠時間、およびこれらの各測定値の変動性を含む睡眠破綻の指標を評価しました。主要評価項目は1年間のtime to pregnancyでした。
結果
183名の女性のうち、82名が追跡期間中央値2.8か月で妊娠に至りました。年齢、BMI、人種、教育、収入、喫煙状況で調整後、睡眠開始時刻の日間変動性および睡眠時間の変動性が大きいことが、妊娠達成までの期間の延長と関連していました(睡眠開始時刻の日間変動の標準偏差が1.8時間以上と1.8時間未満の群を比較したaHR:0.60、95%CI:0.36-0.999、睡眠時間の日間変動の標準偏差が2.3時間以上と2.3時間未満の群を比較したaHR:0.58、95%CI:0.36-0.98)。調整解析では、平均的な睡眠開始・終了時刻、中間睡眠時刻、睡眠時間、睡眠終了時刻および中間時刻の変動性については、統計学的に有意な関連は観察されませんでした。
私見
日常的な睡眠開始時刻と睡眠時間の変動性が大きい女性では、妊娠達成までの期間が長くなることが示されました。メラトニン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンの分泌異常を介したメカニズムが考えられ、規則的な睡眠スケジュールの維持が妊孕能向上に寄与する可能性が示唆されます。特に、夜勤労働者や不規則な生活リズムを持つ女性にとって、睡眠の質と規則性を改善することがtime to pregnancyを改善する可能性があります。
統計的に有意でなかった睡眠項目
睡眠開始時刻(遅い vs 早い) 22:55以降 vs 22:55より前 aHR 1.14
睡眠終了時刻(遅い vs 早い) 7:16以降 vs 7:16より前 aHR 0.83
睡眠中間時刻(遅い vs 早い) 3:09以降 vs 3:09より前 aHR 0.89
睡眠時間(短い vs 長い) 8.5時間未満 vs 8.5時間以上 aHR 1.26
睡眠終了時刻の変動性 >1.7時間 vs <1.7時間 aHR 0.89
睡眠中間時刻の変動性 >1.4時間 vs <1.4時間 aHR 0.72
文責:川井清考(WFC group CEO)
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