受精胚の融解を成功させるために大事な要因を解説します。
受精胚が凍結保存されているのはマイナス196℃の液体窒素の中で、細胞の中は固体でも液体でもないアイスクリーム状のガラス化と呼ばれる状態になっています。
このガラス化する確率の公式はこちらになります。

融解を成功させるためには、融解するギリギリまでガラス化する確率を高くキープする必要があります。この公式から「粘性」と「サンプルの量」は凍結の時に決まってしまっていて変えられないので、融解する時にガラス化する確率を高めるためには「加温速度」を上げることです。
加温速度を上げるとはどういうことでしょうか?
まずは融解の動画をご覧ください。液体窒素の中から凍結保存容器を取り出して、受精胚が載っている先端部分を融解液に投入します。その後、融解液の中で受精胚が凍結保存容器から剥がれて融解液の中を浮遊しています。
加温速度を上げるために重要な要素は二つあります。
一つ目は液体窒素の中から取り出した保存容器を融解液に投入するまでの「時間」
二つ目は融解液の「温度」
になります。
加温速度が速いということは、温度が上がるまでの時間が短いことを意味しています。温度が上がるまでの時間が長ければ長い程、加温速度は遅いことになり、温度が上がるまでの時間が短ければ短い程、加温速度は速いということになります。
こちらのグラフをご覧ください。横軸は時間、縦軸は温度を示しています。仮に0℃から37℃に温度を上げる場合、同じ37℃になるのに0.5秒掛かった場合と1秒掛かった場合のグラフの棒傾きを比べると、0.5秒の方の棒の傾きが1秒に比べて急なので加温速度が速いことが分かります。したがって、融解では液体窒素から融解液に投入するまでの「時間」が短ければ短いほど加温速度を上げることができます。

次にこちらのグラフをご覧ください。この前のグラフと同様、横軸は時間、縦軸は温度を示しています。仮に0℃から28℃と37℃に温度を上げる場合、それぞれの温度に到達するまでに同じ0.5秒掛かった場合のグラフの棒の傾きを比べると、37℃の方の棒の傾きが28℃比べて急なので加温速度が速いことが分かります。したがって、融解では融解液の「温度」が高ければ高いほど加温速度を上げることができます。

実際に受精胚の融解をする時は保存容器の液体窒素から取り出してから融解液に投入するまでの「時間」をできるだけ短く、尚且つ、融解液の「温度」を37℃にキープした状態にすることを常に心掛けています。この二点が受精胚の融解を成功させるための肝となります。
文責:平岡謙一郎(亀田IVFクリニック幕張 培養管理室長/生殖補助医療管理胚培養士)
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