
EMMA & ALICE検査(先進医療:子宮内細菌叢検査1)
EMMA & ALICE検査は、慢性子宮内膜炎など妊娠に悪影響を及ぼす病原性細菌の存在を疑い、体外受精治療が反復不成功の方や流産を繰り返す方を対象に、子宮内の細菌環境が着床に適しているかどうかを調べる検査です。子宮内の細菌バランスを詳細に分析することで、妊娠成功率の向上と流産率の低下を目的として行います。
子宮内細菌叢とは
子宮内は従来無菌と考えられていましたが、実際には微量の細菌が存在し、その菌叢バランスが妊娠の成否に大きく影響することが明らかになっています。健康な子宮内では乳酸菌(Lactobacillus属)が優勢であり、これが着床に適した環境を作り出しています。
慢性子宮内膜炎や子宮内細菌叢の異常は、生殖補助医療を受けている患者では約30%、さらに反復着床不全(RIF)および不育症(RPL)患者では60%に達すると報告されています。また、近年の研究では、Lactobacillus優位な環境が生児獲得率の向上と相関し、病原性細菌の存在が着床後の妊娠継続に負の影響を与えることが明らかになっています。
検査技術の進歩:アップグレードEMMA & ALICE(qPCR法)の導入
当院では2025年5月より、従来のEMMA & ALICE(NGS法)からアップグレードしたEMMA & ALICE(qPCR法)へ検査方法を更新いたしました。この技術革新により、以下の改善が実現されています。
- 高精度な定量測定:相対的占有率(割合%)ではなく、絶対的定量値(GC/mL)での測定が可能
- 種レベルでの同定:より特異性の高い細菌種レベルでの検出・治療方針の選択
- 基準範囲の設定:病原性細菌の個々の臨床的リスクを反映した定量基準範囲を設定
- 検出感度の向上:Low biomass環境でもより高感度での病原菌検出が可能
検査の特徴
アップグレードしたEMMA & ALICE検査では、qPCR法を用いて、培養では検出できない細菌も含めて子宮内に存在するLactobacillus 計4種+1、病原性細菌 計26種(EMMA 16種 + ALICE 10種)を遺伝子レベルで同定・定量化します。
EMMA検査(子宮内膜マイクロバイオーム検査)
子宮内に存在するLactobacillus 計4種+1、病原性細菌 16種の分類および絶対的定量化を行い、存在する細菌の菌種バランスや存在量を総合的に判断します。
結果分類
- Normal:病原性細菌26種全てが基準範囲内あるいは非検出
- Abnormal:病原性細菌のうち1種でも基準範囲上限値を上回った場合
- Undetected:Lactobacillusが検出されず、病原性細菌の全てが基準範囲以下
ALICE検査(感染性慢性子宮内膜炎検査)
慢性子宮内膜炎の原因となる10種類の病原性細菌を検出し、個別化された治療を提案します。
検査の対象者
以下のいずれかに該当する方が対象となります。
- 体外受精-胚移植治療を受けており2回以上移植を行っても臨床的妊娠のない反復着床不全の方
- 2回以上の流産既往がある方
- 細菌性腟症の難治症例の方
- 子宮鏡検査で慢性子宮内膜炎(CE)を疑う症例の方
除外基準
- 重篤な合併症を有する方
- 子宮因子(子宮形態異常や粘膜下筋腫など)を有し、未治療の方
検査方法
検査は外来で行います。月経周期の15〜25日頃(排卵後、黄体ホルモン補充後)の子宮内膜組織を採取します(子宮内膜生検)。
検査手順
- 経腟超音波にて子宮内膜厚を測定し、子宮の方向性を確認
- 腟鏡診を行い、腟内細菌の混入を防ぐため生理食塩水で腟内を洗浄
- 吸引式子宮内膜組織採取器を用いて子宮内膜組織を採取
- 採取した検体を検査試薬に注入し、10℃以下で4時間以上保存
- 検体をクール便で検査会社に発送
- DNA抽出後、qPCR法解析を実施
治療方針
検査結果に基づき、以下の個別化治療を提案いたします。
- Abnormal(病原性細菌異常検出):特異的抗菌薬治療+プロバイオティクス
- Normal:介入なし
- Undetected:プロバイオティクス(Lactobacillus補充)
費用について
通常の保険診療と併せて実施することが可能ですが、先進医療のため患者さまの全額自己負担となります。ただし、民間の医療保険(先進医療特約)や都道府県などの助成制度を利用することで負担を軽減できることがあります。
先進医療に係る費用: 56,100円(患者全額自己負担)
ERA検査との同時実施
EMMA & ALICE検査は、ERA検査(子宮内膜受容能検査)と同時に行うことが可能です。患者さまごとの状況を鑑みて実施するかどうかを提案しています。
注意事項
治療の有効性は現在も検討が進められており、誰にでも有効な治療とは考えられていません。当院では患者さまの状況に応じて個別に検査の適応を判断し、十分な説明を行った上で実施いたします。
代替検査提案として子宮内フローラ検査(先進医療:子宮内細菌叢検査2)、子宮鏡検査、子宮内膜CD138免疫染色検査などがあります。患者さま一人ひとりの状況に応じて、最適な検査・治療プランをご提案いたします。どちらの検査が適しているかについても、詳しくご説明いたします。