不育症

2024.06.05

反復流産患者に対する評価項目(ACOG2024) 

はじめに

アメリカ産婦人科学会(ACOG)が2024年に出した反復流産患者に対する評価項目になります。国内の基準とやや異なりますが、総合的評価・治療指標として参考になります。 

引用文献

de Assis V, Giugni CS, Ros ST. Obstet Gynecol. 2024 May 1;143(5):645-659. doi: 10.1097/AOG.0000000000005498. 

論文内容

流産検体検査
SNPマイクロアレイによる流産検体の遺伝子検査を、産婦人科医がすべての患者に提供することを推奨します(妊娠中期は初回、初期は2回目以降)。 
※通常の核型検査は細胞が生きていないとだめですが、SNPマイクロアレイによる遺伝子検査は細胞が生きていなくても大丈夫です。ただし、SNPマイクロアレイによる遺伝子検査は均衡転座を検出できません。 

両親の夫婦染色体検査
反復流産患者に対して推奨します。特に、流産検体が不均衡な構造異常や転座を示した症例や、流産検体の検査ができない場合は実施が好ましいです。 

甲状腺機能異常
反復流産患者に対して検査・治療を推奨します。 

明らかな甲状腺機能低下症
レボチロキシンの補充を推奨します。 

潜在性甲状腺機能低下症とTPO抗体の状態
反復流産患者に対して潜在性甲状腺機能低下症の患者、またはTPO抗体陽性の患者に対してはレボチロキシン補充のリスクと利益について話し合うことを推奨します。 

甲状腺機能亢進症
流産歴に関係なく、米国甲状腺学会のガイドラインに従うことを推奨します。 

潜在性甲状腺機能亢進症
反復流産患者に対して治療を行わないことを推奨します。 

プロゲステロン
反復流産患者に対してプロゲステロン値の評価は推奨しません。 
妊娠初期出血のある反復流産女性にプロゲステロンの補充を考慮することを推奨します。反対に、妊娠初期出血のない反復流産女性では、プロゲステロンの投与は推奨しません。 

プロラクチン
反復流産患者に対して高プロラクチン血症または低プロラクチン血症の評価は、検査を支持するデータが不十分なため推奨しません。 

糖尿病
臨床的に適応がない限り、反復流産患者に対して糖尿病スクリーニングを推奨しません。 

PCOS
反復流産として検査するのではなく、一般のPCOSの診断・治療指針に従い対応することを推奨します。 

子宮形態異常
反復流産患者に対して子宮内腔評価を推奨します。 

抗リン脂質抗体症候群
反復流産患者に対してAPSの検査所見(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピンIgGおよびIgM、抗β2GPI IgGおよびIgM)の検査を推奨します。その他の抗リン脂質抗体の検査は推奨しません。 
抗リン脂質抗体症候群の臨床検査基準を満たした反復流産女性には、アスピリンとヘパリンによる治療を推奨する。抗リン脂質抗体症候群がない反復流産女性には抗凝固療法(ヘパリンまたはアスピリン)は推奨しません。 
抗リン脂質症候群はまれな後天性血栓症であり、全体の有病率は10万人あたり50人ですが、抗リン脂質抗体は、リン脂質に結合した蛋白質に対する免疫グロブリンであり、一般の健常人の約1〜5%が持っています。 

先天性血栓性疾患
反復流産患者に対して検査を行うことは推奨しません。 
文献上、遺伝性血友病(第V因子ライデンホモ接合体、プロトロンビン遺伝子G2010A変異ホモ接合体、第V因子ライデンおよびプロトロンビンG 20210A変異のヘテロ接合体、またはアンチトロンビン、プロテインC、プロテインS欠損症)とRPLとの間に一貫した関連はありません。 

免疫学的因子
反復流産患者に対してHLAテスト、MAIA、抗核抗体検査は推奨しません。 

原因不明反復流産女性に対するステロイド、免疫グロブリン静注、フィルグラスチム、イントラリピッド、父性リンパ球免疫療法の使用は推奨しません。 

生殖補助医療
反復流産患者に対して生児獲得上昇を目的とした生殖補助医療を推奨しません。 

生活習慣

  • 肥満 
    反復流産患者に対して減量のために多方面からのアプローチによる支援を推奨します。 
  • カフェイン、タバコ、アルコール 
    反復流産患者に対して生活習慣の最適化について推奨します。 
  • ビタミンD欠乏症 
    反復流産患者に対してビタミンDのスクリーニングを行うことは推奨しません。 
    欠乏患者には補充を推奨します。 

男性因子
反復流産患者に対して精液検査を推奨しません。 

感染症
反復流産患者に対して子宮内膜生検を行うことは推奨しません。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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