はじめに
米国産科婦人科学会(ACOG)、英国王立産科婦人科学会(RCOG)、英国国立医療技術評価機構(NICE)、世界保健機関(WHO)、国際産科婦人科連合(FIGO)の妊娠高血圧腎症予防目的でのアスピリン開始時期、推奨量、中止時期は以下となっています。
開始時期 | 推奨量 | 中止時期 | |
---|---|---|---|
ACOG | 12-28週 16週未満推奨 | 81mg | 分娩まで |
RCOG | 12週 | 150mg | 分娩まで |
WHO | 20週未満 | 75mg | 記載なし |
FIGO | 11週から14週6日まで | 150mg | 36週まで、分娩になったときまで、妊娠高血圧腎症の診断される時まで |
NICE | 12週 | リスク中:75mg リスク高:150mg | 分娩まで |
ポイント
各国ガイドラインにより妊娠高血圧腎症予防のアスピリン投与時期・量は異なりますが、妊娠16週以前の1日100mg超投与が最も効果的である可能性があります。
引用文献
Rebecca Horgan, et al. Am J Obstet Gynecol. 2023 Oct;229(4):410-418. doi: 10.1016/j.ajog.2023.04.031.
論文内容
主要な国際機関5団体(ACOG、RCOG、NICE、WHO、FIGO)の妊娠高血圧腎症予防目的でのアスピリン投与に関するガイドラインを比較検討した。開始時期は11-20週と幅があり、推奨量は75-150mgと差があった。総合的には妊娠16週以前の100mg超投与が最も効果的と考えられる。分娩後出血のリスクには注意が必要だが、胎児への安全性は確認されている。現在進行中のRCTにより162mg投与の有効性・安全性がさらに明確になる予定である。
私見
総合的判断として、妊娠16週以前に1日100mgを超えるアスピリンの投与が妊娠高血圧症候群リスクを減少させるのに最も効果的でありそうです。
ただし、分娩後出血の増加は懸念材料であるので注意が必要です。最近のエビデンスでは、妊娠中の低用量アスピリン使用による胎児の頭蓋内出血、発育転帰、先天奇形のリスク増加は認めていません。
妊娠高血圧腎症予防としてアスピリン1日162mgがアスピリン1日81mgより優れているかどうかを評価するランダム化比較試験が現在計画中または進行中であり、アスピリン1日162mgの安全性と有効性の両方についてさらに明確になりそうです(NCT04070573およびNCT05514847)。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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