はじめに
卵子凍結を行なっても、使用されない/できない場合があります。
母親になれる年齢を逸脱してしまった、パートナーに恵まれなかった、保存料を継続して払おうと思えなくなった、パートナーが子供を望まなかった、凍結卵子を使わず子供を授かった、など理由はさまざまです。卵子凍結するかどうかに対する報告は数多くありますが、廃棄・提供など使用しない場合の意思決定に影響を与える因子の調査はなかったのでご紹介させていただきます。
ポイント
凍結卵子の使用意思決定には6つのテーマがあり、母性経験の有無により卵子提供への態度が異なることが判明しました。卵子凍結時の十分な情報提供とカウンセリング、意思決定支援ツールの必要性が示唆されます。
引用文献
Lucy E Caughey, et al. Fertil Steril. 2023 Jul;120(1):145-160. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.02.022.
論文内容
凍結卵子を使用しない場合の対応に伴う意思決定を31名(過去7名、現在6名、将来18名)のインタビューに対して定性的研究(qualitative research)を実施しました。
結果
意思決定プロセスに関連する6つの相互に関連するテーマが同定されました。
意思決定のダイナミクス性、最終決定のきっかけ、母性を持てるかどうか、卵子の概念化、卵子提供が他者に与える影響、最終的な処分結果に影響する外的要因です。
全女性が、凍結卵子を使用しない場合の対応に伴う意思決定をどのように行なったか答えを持っていました。母性を持てた女性は、卵子提供も前向きでしたが、自分の子供・提供する女性への影響・責任を感じていました。母性を持てなかった女性は、卵子提供に抵抗があり、孤独感、誤解、サポート不足を感じていました。卵子を自宅に持ち帰って終わりを迎えたりするなどの卵子処理の儀式が気持ちの整理に役立った女性もいました。研究目的での卵子提供は、卵子が無駄にならず、他人への卵子提供のときの複雑な感情が発生しないため、利他的な選択と考えられています。凍結卵子を使用しない場合の対応に伴う意思決定に関する知識が不足している傾向があり、カウンセリング、意思決定支援ツール、最初に卵子凍結する際の早期情報提供の必要性があるかもしれないことがわかりました。
私見
ノンメディカル卵子凍結が今後、おこなわれていく中、使われない卵子に対しての対応について、実施するときと合わせて議論をおこなっていく必要があることを感じました。国内での卵子提供もイメージした学会の提言や政策が必要になっていくのだと思います。
凍結胚に関しては「ヒト」「こども」として認識する先行研究(Lyerly A.D.Fertil Steril. 2010)がありますが、凍結卵子に関しては「細胞」と認識している人が多い傾向があったのも興味深い結果でした。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。