はじめに
黄体期卵巣刺激は通常の不妊治療ではなく、限られた期間で治療しなくてはいけないがん患者などで一般的に行われるようになってきました。これにより同一周期に2回採卵を行うDuoStim(double stimulation)など多彩な卵巣刺激を行うことが選択肢に挙げられるようになりました。過去にも黄体期卵巣刺激と卵胞期卵巣刺激は同等の正倍数性胚であるという報告がありましたが、double stimulationを実施していたりしたため、黄体期卵巣刺激と卵胞期卵巣刺激の純粋な比較検討論文が存在しませんでした。今回、黄体期卵巣刺激と卵胞期卵巣刺激の間に1ヶ月以上あけて同じプロトコールで実施した研究が報告されましたのでご紹介いたします。
ポイント
過去の報告も含めて、黄体期卵巣刺激は卵胞期卵巣刺激と正倍数性胚割合は変わらないことがわかりました。しかし、黄体期卵巣刺激は通常より卵巣刺激期間、投与量が増えるため、がん・生殖医療などの特殊な状況を除き、通常の卵胞期卵巣刺激に代替するものではありません。
引用文献
Francisca Martinez , et al. Hum Reprod. 2022 Oct 21;deac222. doi: 10.1093/humrep/deac222.
論文内容
2018年5月から2021年12月の間に実施された前向き試験です。44名の卵子提供者(年齢 26.20±3.75歳、 BMI 22.96±2.11、 AFC 18.04±1.26 、AMH 3.59±1.32 ng/ml)が、黄体期卵巣刺激と卵胞期卵巣刺激を行い比較検討しました。主要評価項目は正倍数性胚の割合としました。
卵巣刺激方法はfixed GnRHアンタゴニストプロトコル(150μgコリホリトロピンαと200IU rFSH extra、卵巣刺激6日目からガニレスト使用しGnRHaにてトリガー)を行い、平均6個(それ以外は卵子凍結)を顕微授精実施し、正倍数性胚の割合を検討しました。
結果
卵胞期卵巣刺激は黄体期卵巣刺激と比較して、刺激期間が有意に短く(平均値の差 -1.05(95%CI -1.89; -0.20))、必要なrFSHのextra量も少なくなりました(DBM -196.02(95%CI -319.92; -72.12))。ドナーのホルモンプロファイルは卵胞期卵巣刺激・黄体期卵巣刺激間で同等であり、平均回収卵子数(23.70 ± 10.79 vs. 23.70 ± 8.81)(DBM 0.00(95% CI -3.03; 3.03)) MII卵子数(20.27 ± 9.60 vs. 20.73 ± 8.65)(DBM -0.45(95% CI -2.82; 1.91) )にも差を認めませんでした。正常受精率(71.9% vs. 71.4%)、受精後の胚盤胞到達率(59.4% vs. 62%)、正倍数性率(56.9% vs. 57.3%)で差は認められませんでした。
私見
過去の報告も、黄体期卵巣刺激と卵胞期卵巣刺激はほぼ差がないことが証明されています。適切に管理することで患者様の治療効率につながっていきますね。
Racca A,et al. Drugs 2020; 80:973–994.
Ubaldi FM,et al. Fertil Steril 2016; 105:1488–1495.e1.
Vaiarelli A, et al.Hum Reprod 2020; 35:2598–2608.
文責:川井清考(WFC group CEO)
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