体外受精

2022.01.17

染色体異数性胚の着床前・後の発生はどうなっているの?(Nat Commun. 2020)

はじめに

異数性胚がどの時点で死滅するのかは分かっていないことが多くあります。最近まで着床(7日目)以降のヒト胚の発育を研究するには技術的な困難が伴うためでした。近年の技術的進歩により、試験管内でもヒト胚を7日目以降、12日目、13日目まで成長させることができるようになりました。それにより異数性胚の着床前・後の挙動が少しわかってきました。基礎的な内容となっています。

ポイント

異数性胚の多くは着床前後で発育が停止しますが、特定の染色体異常では胚盤胞まで発育します。常染色体モノソミーは着床前に失われやすく、トリソミー16は栄養膜細胞の増殖が抑制されることが明らかになりました。

引用文献

Marta N Shahbazi, et al. Nat Commun. 2020. DOI: 10.1038/s41467-020-17764-7

論文内容

着床前診断がすべての女性に提供されている単一施設で採取された35,171個の胚のうち、単一の染色体異数性を示した9,803個の胚を分析しました。その内訳は、常染色体モノソミーが4,712個、常染色体トリソミーが4,717個、性染色体異数性が374個で、25,368個の正倍数性胚盤胞と比較しました。今回の解析では、単一の染色体を含む完全染色体異数性のみを対象としたため、モザイク異数性や分割異数性と診断されたものはすべて除外しました。同様に、2本以上の染色体を含む複合型異数性も除外しました。

結果

異数性のあるヒト胚の着床前の発達

  • 15番、16番、21番、22番の異数性が最も多いことがわかりました。
  • 培養5日後に胚盤胞期に到達した13,358胚と、培養6日後に胚盤胞期に到達した21,439胚で検討したところ、正倍数性胚に比べて単一染色体のgainもしくはlossは発育時間に影響を与えていました。特に3番または6番のloss、または6番、8番、11番、12番、20番のgainは、胚盤胞期までの発育に最も大きな影響を与えていました。
  • 5日目の胚盤胞のスコアリングですが、正倍数性胚より一箇所のgain、lossがスコアが悪く、gainに比べてlossの方がスコアが悪い傾向がありました。
  • トリソミー15、トリソミー16、トリソミー21、モノソミー21の胚は、正倍数性胚と比べて胚発育にほとんど差がありませんでした。

異数性のあるヒト胚の着床後の発達

融解した163個の胚のうち、152個がA/B gradeだったので、これらの中から孵化に至った胚で検討しました。孵化後、3日間発育させた後、固定して分析しました。細胞を着床後に胎児と羊膜の前駆体へ寄与するepiblast(OCT4+)、卵黄嚢の前駆体へ寄与するhypoblast(GATA6+)、胎盤の前駆体のtrophoblast(OCT4-GATA6-)に分けて検討しています。

  • Gardner A/B gradeの良好胚盤胞は9日目までは同じように発育することがわかりました。
  • 特異的な異数性(トリソミー21(14個の胚:最も一般的なトリソミー)、トリソミー15(16個の胚:特定の頭蓋顔面、四肢、臍帯の構造的欠陥が見られる第一期の流産が大半)、トリソミー16(24個の胚:卵黄嚢がない第一期の流産が大半)、モノソミー21(17個の胚))と22個の正倍数性胚を検討し、胚盤胞がディッシュに付着したのは7〜8日目で、その後、栄養膜細胞の膨張と成長が見られました。
  • モノソミー21の胚は培養9日目までに発生停止する可能性が10倍高いことがわかりました。過去のin vitroでのモノソーム胚の接着不良の報告や、常染色体モノソームが第一期流産ではほとんど検出されないことから、常染色体モノソームは臨床妊娠に到達する前に流産することと推測されます。
  • トリソミック胚は正倍数性胚と同様に培養9日目まで成長することがわかりましたが、トリソミー16胚は栄養膜細胞の増殖が抑制されることがわかりました。
  • 着床前、着床後の初期のいずれにおいても、雌と雄の胚のin vitroでの発育能力に有意な差は認められませんでした。

その他

  • ヒトの栄養膜細胞の幹細胞を用いて、この表現型は、16番染色体に位置する細胞接着タンパク質であるE-CADHERINのレベルが上昇し、早期の分化と細胞周期の停止を引き起こすことがメカニズム上の原因であることを示しました。
  • 着床前検査で完全な異数性と診断された胚の中に、3例(29胚のうち)のモザイク胚が認められました。

私見

私の大学院時代の研究テーマはヒト胚盤胞の遺伝子発現でしたが、ミトコンドリア機能やテロメアの長さ、エピジェネティクスなど着床前後の胚発生に影響を与える因子の複雑さは、まだまだ複数あることを感じてしまいます。治療を通してうまくいかない場合、行間をイメージしながら治療に関わっていますが、もっともっと胚発生に関わる原因そして治療方針が明確になっていくといいですね。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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