治療予後・その他

2025.11.18

日本人妊婦における腟内ラクトバチルス優勢群の妊娠転帰(Nat Commun. 2025)

はじめに

妊娠中および周産期の母体マイクロバイオームは、母体周産期転帰と新生児腸内マイクロバイオームの確立において重要な役割を果たします。しかし、地域や民族による違いが大きく、健康なマイクロバイオームの定義は明確ではありませんでした。本研究は、日本人42名の母親とその45名の子を対象とした初の縦断研究で、妊娠期間中および産後期間を通じて16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを用いてマイクロバイオームを調査したものです。

ポイント

日本人コホートでは妊娠初期のラクトバチルス属優勢が妊娠38週継続と関連していました。

引用文献

Noriaki Oguri, et al. Nat Commun. 2025 Sep 10;16(1):8032. doi: 10.1038/s41467-025-63466-3.

論文内容

42名の母親とその45名の子を対象とした縦断研究で、妊娠期間中および産後期間を通じて母体および新生児のマイクロバイオームを調査することを目的としました。母体マイクロバイオームサンプルは妊娠12週、20週、30週、36週、分娩時、産後1か月の複数時点で収集され、腟および腸のサンプルが採取されました。新生児の腸内マイクロバイオームサンプルは出生0日、1日、4日、1か月時に収集されました。

結果

母体腟マイクロバイオームは妊娠中比較的安定していましたが、産後期間に有意な変化を示しました。ラクトバチルス属の中では、L. crispatus群が最も高い存在量を示しました(妊娠12週:54.17±7.68%、36週:70.73±6.63%)。妊娠12週時点でラクトバチルス属が優勢だった母親群では、その他の菌属が優勢だった群と比較して妊娠38週を超えて継続する割合が有意に高くなりました(89.66% vs. 50.00%; p=0.0164)。母体腸内マイクロバイオームは妊娠期間を通じて腟マイクロバイオームと関連していました。新生児腸内マイクロバイオームは生後早期に大幅に変化し、細菌組成は分娩様式の影響を受けました。

私見

日本人でL. crispatus群が優勢だったのは偶然の可能性もあり、他のラクトバチルス種(L. iners、L. jensenii、L. gasseri)が優勢な集団での妊娠転帰については今後の検証が必要です。中国人コホートではL. crispatus群とL. iners群が同程度存在するとの報告もあり(Ng S, et al. NPJ Biofilms Microbiomes. 2021)、アジア人集団内でも多様性が示唆されます。
妊娠38週以上の分娩は「ラクトバチルス属全体の優勢性」と関連している可能性があり、L. crispatus群の直接的効果はまだ証明されていません。不妊領域でもラクトバチルスの重要性は注目されていますが、種レベルの議論はこれからの課題です。腟や腸のマイクロバイオームは16S rRNAアンプリコン解析が一般的ですが、不妊分野では菌量の少ない子宮腔内マイクロバイオームを対象とするため、次世代シーケンサーとPCR解析の使い分けも今後の重要な検討点です。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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