体外受精

2021.11.01

異常受精胚の取扱のディスカッション(2021年 ESHRE)

はじめに

2021年ESHREで注目されたセッションが「異常受精胚(abnormally fertilised oocytes: AFO胚)の取扱い」です。このセッションは0PN、1PNから生児出産の報告をしたAntonio Capalbo先生、Catello Scarica先生がセッション担当されました。 

ポイント

2021年ESHREでは、着床前検査の進化により1PN胚由来胚盤胞の50%、3PN胚由来胚盤胞の10〜20%が正常2倍体であることが報告されました。異常受精胚の移植可能性が示されたが、国際ガイドラインの更新と遺伝カウンセリングが必須とかんがえられます。 

引用文献

https://www.focusonreproduction.eu/article/ESHRE-News-ESHRE-2021-AFO

まとめ

正常受精胚(2PN)由来の胚盤胞でも0.5〜1%に倍数性の異常があるとされており、これらはチェックされて移植されていることを指摘しました。最近の着床前検査の進化により、今まで異常受精で移植対象から外されていた1PN胚由来の胚盤胞の50%、3PN胚由来の胚盤胞の10〜20%が正常な2倍体であることを指摘しています。倍数性検査が基本にある中で、移植胚としての可能性を報告しています。 
ただし、二名の博士とも異常受精胚の発育・出生・長期予後は意識された発言をされています。その一つとして0PN由来の単胎児は2PN由来の胚の単胎児よりも出生時の体重が高いという例を挙げています。 

Antonio Capalbo先生、Catello Scarica先生は現在のところ、下記のように考えているようです。 
①異常受精胚の国際的なガイドラインの更新は必須 
②着床前検査を行うことが大前提であること 
③2PN由来胚を優先的に移植すべきであること 
④3PN以上の多核由来胚は移植対象としては推奨しないこと 
⑤0PNおよび1PN由来胚は胚盤胞まで培養すること 
⑥遺伝カウンセリングを行うこと 

私見

この論調を見る限り2021年現在、新しい検査、そして報告により移植胚の評価に関して転換期であることがわかります。患者様に異常胚の取扱を質問された場合、この報告を示すしかありませんが、日本では異常胚に着床前検査を行うことが一般的には認められておらず、上記のような治療方針が立てられないのが実情です。 
その上で患者様に情報提供を行い治療方針を決定していくことが大事だと考えています。 参考程度に当院での異常受精胚あたりの胚盤胞到達率は下記のとおりです。 

胚盤胞到達率 良好胚盤胞到達率 
受精方法 媒精顕微授精 媒精 顕微授精 
0PN 2.2% 0.8% 0.9% 0.1% 
1PN 29.5% 20.3% 12.0% 8.6% 
3PN 培養なし 16.0% 培養なし 4.3% 

つまり、異常受精胚の一部には良好胚盤胞になる胚があるということです。移植判断は本当に難しいと思っています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 染色体

# 前核(0PN、1PN、2PN、3PN)

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 胚盤胞

# 胚質評価

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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