はじめに
ATLAS OF HUMAN EMBRYOLOGYでは、前核形成が媒精周期は顕微授精周期より約1時間遅れていることを考慮して、受精後17±1時間後に評価を行うことを推奨しています。正常な受精胚(2PN胚)は球形で2つの極体と2つのPNをもっていることが定義です。PNはほぼ同じ大きさで細胞質の中央に並んで存在し、はっきり膜が確認できることが好ましいとされています。
では、それ以外の異常受精といわれる胚に正常な胚はないのでしょうか。
異常受精胚由来の胚盤胞(abnormally fertilized oocyte (AFO)–derived blastocyst)が2倍体であり胚移植可能と今後なっていくのか検討するために行われた報告をご紹介します。
ポイント
1PN胚や2.1PN胚由来の胚盤胞の多くが2倍体であることが判明しました。異常受精胚由来の胚盤胞でも倍数性評価を行うことで移植可能な胚が得られる可能性があり、PGT-Aが有効なツールとなります。
引用文献
Antonio Capalbo, et al. Fertil Steril. 2017. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2017.08.004
論文内容
2015年1月から2016年9月までPGT-Aを実施した体外受精周期(556名719周期)を対象とした縦断的コホート研究です。1PN胚または2.1PN胚からの胚盤胞を対象としました。彼らは卵巣刺激を行った後hCG投与から36-38時間後で全て顕微授精を実施して16-18時間で受精チェックを行っています。(当院の受精判定より4-5時間早い印象です。)
NGSを用いたSNPs解析にて倍数性の評価を行っています。
異常受精胚由来の胚盤胞の2倍体の割合と臨床結果を評価項目としました。
結果
5,026個の成熟卵子のうち、5.2%と0.7%がそれぞれ1PNと2.1PNであり、胚発育は不良でした。27個の異常受精胚由来の胚盤胞について解析したところ、1PN由来の胚盤胞は2倍体(n = 9/13; 69.2%)、1倍体(n = 3/13; 23.1%)、3倍体(n =1/13; 7.7%)でした。2.1PN由来の胚盤胞もほとんどが2倍体で(n=12/14; 85.7%)、残りは3倍体でした。719周期のうち、異常受精胚由来の胚盤胞が得られた周期が3.6%(n=26/719)であり、異常受精胚由来の胚盤胞のみから正倍数性胚が得られた周期が0.4%ありました(n=3/719)。全体として、異常受精胚由来の胚盤胞から8個の正倍数性胚が得られ3名が出産に至っています(1PN胚 1例、2.1PN 2例)。
私見
倍数性評価を取り入れたPGT-Aは、異常受精胚由来の胚盤胞を移植するために効果的なツールとなります。
彼らの言うように異常受精胚が貴重胚であった場合、移植を行うかどうかは過去のルールに固執せず、今できる最大限のツールを用いて不妊で苦しむカップルのために最適化した医療を提供していく姿勢はとても大事だと思います。ただし、異常受精胚を移植するようになってからの歴史は浅く、児の長期予後はわかっていません。なにより夫婦、そして生まれてくる子供にとって後悔ない医療を夫婦とともに向き合っていくための取り組みが大きな枠組みで必要なのだと感じています。
最初の観察から4時間後に再評価を行い、再度受精確認をすることで非同期的な2PN形成症例が一定数あることを報告しています。そうすることで成熟卵あたり0.07%-0.4%、1PNあたり1.3-7.3%の異常受精胚が正常受精胚であることが確認されレスキューされることがわかります。
また1PN胚、2.1PN胚の胚盤胞到達率は6.5% (13/200、95%CI: 3.5%-10.9%)、51.9% (14/27、95%CI: 31.9%-71.3%)で、1PN胚は胚盤胞までかなり淘汰されることがわかります。
ItoiらのようにAFO胚を患者様との同意のもと移植するのであれば良好胚盤胞であることが好ましいのでしょう。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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