体外受精

2021.05.15

PPOSはデュファストン®で大丈夫?(Hum Reprod. 2018)

はじめに

PPOS(Progestin-primed ovarian stimulation)の報告は年々増加しています。黄体ホルモン製剤を卵巣刺激時に内服併用することで早発LHサージを抑制することができます。また、アンタゴニスト製剤に比べて黄体ホルモンの内服薬は安価であり、プロトコルとしても簡便で医師間のばらつきが少ないとされています。PPOSで初めて報告された際の使用薬剤はメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)(Kuangら、2015)でした。MPA投与は、卵子の質、受精、胚発育に影響を与えないとされていますが、妊娠中には禁忌薬剤とされています。MPAを用いた卵巣刺激により妊娠した児の長期的な安全性については、現在も調査されています。また、MPA使用は下垂体抑制が強く、従来の卵巣刺激プロトコルよりも高用量のゴナドトロピンと長期間の卵巣刺激が必要になります(Kuang et al.2015)。MPAとジドロゲステロン(DYG:デュファストン®)を比較した論文をご紹介いたします。 

ポイント

PPOSにおいてジドロゲステロン(DYG)20mg/日とメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)10mg/日を比較したRCTでは、回収卵子数や有効胚率、臨床的妊娠率に有意差はなく、DYGはMPAの代替プロゲスチンとして使用可能であることが示されました。 

引用文献

Sha Yu et al. Hum Reprod. 2018. DOI: 10.1093/humrep/dex367 

論文内容

PPOSはMPAが一般的に使われていますが、下垂体抑制が強いため従来の卵巣刺激プロトコルよりも高用量のhMGと長時間の卵巣刺激が必要となる可能性があります。 
代替プロゲスチンとしてジドロゲステロン使用がMPAと比較して適正使用できるかどうかを検討しました。2015年11月から2016年11月にかけて516名の36歳未満女性に前向きRCT(hMG+DYG群(260名)とhMG+MPA群(256名))を実施しました。 
1名の女性につき体外受精1周期を対象としました。主要評価項目は回収卵子数としました。サンプルサイズは、90%の検出力で2個の卵子の差を検出できるように選定しました。プロゲスチンは、月経周期3日の卵巣刺激開始時に同時に投与しました。hMGは225IU連日とし、DYG(20mg/日)またはMPA(10mg/日)投与とし、排卵誘発はGnRHアゴニストとhCG10000単位のダブルトリガーとし34-36時間後に採卵術を施行しました。3日目で良好胚の場合は凍結、不良胚の場合は胚盤胞まで培養して凍結するかどうか判断しました。 

結果

両群の年齢、BMI、不妊期間などに差はありませんでした。 
回収卵子数(平均±SD)[hMG+DYG群10.8±6.3個、hMG+MPA群11.1±5.8個、P=0.33]、卵子回収率[hMG+DYG群74.3±19.6%、hMG+MPA群75.0±19.5%、P=0.69]に両群間で有意差はありませんでした。 
回収卵子1個あたりの有効胚率は両群間で差がなく[オッズ比(OR)1.08、95%CI 0.97-1.21、P=0.16]、hMG+DYG群37.4%(1052/2815)に対し、hMG+MPA群35.6%(1009/2837)でした。 
卵巣刺激の全過程において、hMG+DYG群の平均LH値はhMG+MPA群よりも常に高くなりましたが(P<0.001)、いずれの群においても早発LHサージが出た症例はいませんでした。また、中等度または重度の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症した患者はいませんでした。初回凍結融解胚移植の臨床的妊娠率は、両群間に有意な差はなく(OR 0.82、95%CI 0.56-1.21、P=0.33)、hMG+DYG群57.6%(125/217)に対し、hMG+MPA群62.3%(132/212)でした。 
DYGは、通常の投与量では排卵を全く阻害しないか、弱い阻害力しか示しませんが、卵巣刺激時のhMGアジュバントとして使用できます。この知見は、体外受精におけるPPOSプロトコルの適切な代替プロゲスチンとしてのDYGの新たな応用の可能性を示唆しています。 

私見

卵巣刺激中、hMG+DYG群はhMG+MPA群の平均ホルモン値よりも常に高く、特にLHが高くなりました。今回の前向き試験ではhMG+DYG群のhMG総投与量は、hMG+MPA群に比べて少ない結果となりましたが、その差は有意ではありませんでした。MPAよりDYGの方がLH抑制効果は弱い可能性を示唆しています。 
彼らは予備試験で53例にDYG10mg/日でのPPOSを実施していますが、3名が早発LHサージを起こし、2名がトリガー後34〜36時間で早期排卵となっています。このことから、1日20mgのDYGが最小有効量ではないかと推測しているようで、とても参考になりました。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# PP(PPOS)

# プロゲステロン/プロゲスチン

# ゴナドトロピン

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

トリガーから採卵までの最適時間:GnRHアゴニストvs hCG(F S Rep. 2025)

2025.11.26

PP法とGnRHアンタゴニスト法比較:システマティックレビューとメタアナリシス(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.19

DYD-PPOS vs. MPA-PPOS vs. GnRHアンタゴニスト(J Assist Reprod Genet. 2025) 

2025.07.08

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

フォリトロピンデルタを用いたPPOS法 vs. アンタゴニスト法(Cureus 2025)

2025.06.05

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.03.14