体外受精

2025.01.06

HRT周期凍結胚移植後の早期黄体補充中止でも生児獲得(当院報告:BMC Pregnancy Childbirth. 2024)

はじめに

日本では約90%の体外受精出生児が凍結融解胚移植によるものとされています。凍結融解胚移植では、排卵周期とホルモン補充周期があり、後者では外因性エストロゲンとプロゲステロンで子宮内膜を調整します。一般的に妊娠維持のためにプロゲステロンが妊娠黄体から絨毛・胎盤での産生にシフト完了する妊娠8~10週頃まで継続されないと、妊娠喪失につながることが多いと報告されています。今回、妊娠3週5日でホルモン補充を中止したにもかかわらず、生児を得られた症例を報告しています。

ポイント

HRT周期凍結胚移植後の早期黄体補充中止でも妊娠継続・生児獲得が可能な可能性が示唆されました。着床した場合は、hCGが非常に低い値であっても追加フォローする必要があります。

引用文献

Katsumata S, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2024;24:831. doi: 10.1186/s12884-024-07059-w

論文内容

凍結融解胚移植において、黄体補充は着床と妊娠維持に重要です。一般的に黄体補充は、プロゲステロン産生が妊娠黄体から絨毛・胎盤での産生にシフト完了する妊娠8~10週頃まで継続されます。今回、ホルモン補充周期での凍結融解胚移植後、妊娠3週5日で妊娠判定によりhCG超低値のため黄体補充を中止したにもかかわらず、健常児を出産した症例を報告しています。

30歳の原発性不妊症女性に対して凍結融解胚移植を予定しました。子宮内膜調整のためホルモン補充療法を開始し、内膜厚8mmを確認後、4BB胚盤胞を移植しました。妊娠3週5日時点で血清hCGが8.3mIU/mLと低値であったためホルモン補充を中止しましたが、妊娠6週1日にhCGが9,359mIU/mLまで上昇し、胎嚢と心拍を確認したためホルモン補充を再開しました。最終的に妊娠40週6日に2,601gの健常女児を経腟分娩しました。

私見

本症例は、着床後の妊娠維持に早期絨毛からプロゲステロン産生が起こり、黄体補充を中止しても妊娠が継続する可能性を示唆しています。妊娠初期に血清hCGが超低値であっても妊娠継続の可能性があるため、黄体補充を中断した場合でも適切なフォローを行うことが必要と考えられます。

過去の同様報告は以下の通りです。単一胚盤胞移植での報告で、血清hCGによる妊娠判定を行った報告は他になく、意義深い症例報告といえます。

Kapetanakis et al. (1990)
 - 45歳、卵子提供による妊娠
 - 3個の分割期胚を移植
 - 妊娠4週で尿中hCG陰性
 - その後のHRT中止にもかかわらず、妊娠9週で胎児心拍確認

Ben-Nun et al. (1990)
 - 36歳、卵巣予備能低下
 - 3個の分割期胚を移植
 - 妊娠3週6日で尿中hCG陰性
 - その後異所性妊娠と判明(妊娠6週5日でhCG 3,660mIU/mL)

Tong et al. Case 1 (2011)
 - 43歳、卵子提供による妊娠
 - 2個の胚移植(胚のステージ不明)
 - 妊娠4週3日で尿中hCG陰性
 - 妊娠4週3日から8週3日までHRT中止
 - 妊娠35週で2,500gの男児を帝王切開で出産

Tong et al. Case 2 (2011)
 - 24歳、両側卵管閉塞/PCOS
 - 3個の胚移植(胚のステージ不明)
 - 妊娠4週5日で血清hCG 90.71 IU/L
 - 移植前日から妊娠5週2日までE2中止
 - 帝王切開で2,800gの女児を出産

クリニックのアカデミアとしての存在意義は、貴重な例外を再考し続けることにあると考えています。それが臨床医学の発展につながるのではないでしょうか。

生成AIに過去の格言を調べてもらいました。今年も、日々の中で見落としがちな小さな“例外”に目を向け続けたいと思います。

格言

カール・ポパー(Karl Popper)
“Science must begin with myths, and with the criticism of myths.”

ブレーズ・パスカル(Blaise Pascal)
“Contradiction is not a sign of falsity, nor the lack of contradiction a sign of truth.”

フランシス・ベーコン(Francis Bacon)
“If a man will begin with certainties, he shall end in doubts; but if he will be content to begin with doubts, he shall end in certainties.”

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# hCG

# ホルモン補充療法

# プロゲステロン/プロゲスチン

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

凍結胚盤胞融解時における脂肪酸添加が妊娠予後を改善(Sci Rep. 2024)

2026.10.09

脂肪酸添加融解液で融解した初期胚移植の生殖予後(BMC Pregnancy Childbirth. 2024)

2026.10.07

ヒト胚の平衡時間短縮ガラス化法の安全性:概念実証研究(Hum Reprod Open. 2026)

2026.09.22

低体重女性における新鮮胚移植と凍結胚移植:SGA児率(J Assist Reprod Genet. 2026)

2026.09.14

凍結融解胚移植の内膜調整:トリガー修正自然周期 vs 自然周期(Fertil Steril. 2026)

2026.08.26

体外受精の人気記事

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

2022.06.24

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

千葉県「早期不妊検査費助成事業」が2026年10月1日から始まりました―夫婦ふたりで不妊検査を受けると、1組につき上限3万円まで助成―

2026.10.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

卵子の大きさ

2025.03.08