治療予後・その他

2025.08.18

妊娠中期頚管短縮に対するプロゲステロン腟剤の周産期予後改善効果(Am J Obstet Gynecol. 2025)

はじめに

早産は新生児死亡や長期的な合併症の主要な原因であり、その予防は産科医療における重要な課題です。妊娠中期の経腟超音波検査で子宮頚管長が25mm以下と短縮している場合、早産のリスクが高まることが知られています。プロゲステロン腟剤は早産予防の有効な治療法として注目されていますが、これまでの研究の一部が撤回されたことから、その効果について再検討が必要となりました。今回、撤回論文を除外し新たなデータを追加した個別患者データメタ解析により、プロゲステロンの効果が再評価された検討をご紹介いたします。 

ポイント

単胎妊娠で妊娠中期の子宮頚管長が25mm以下の場合、プロゲステロン腟剤投与により妊娠33週未満の早産リスクが37%減少することが確認されました。

引用文献

Roberto Romero, et al. Am J Obstet Gynecol. 2025 Jul;233(1):e1-e5.  doi: 10.1016/j.ajog.2025.03.013.

論文内容

単胎妊娠で妊娠中期の経腟超音波検査による子宮頚管長が25mm以下の無症候性女性における早産および周産期有害事象のリスクに対するプロゲステロン腟剤の有効性を評価することを目的とした個別患者データメタ解析です。2018年の前回解析に含まれていた撤回論文を除外し、2017年10月1日から2024年12月31日までに発表された研究を追加して解析を更新しました。主要評価項目は妊娠33週未満の早産、副次評価項目は各妊娠週数での早産および周産期合併症としました。

結果

4つの二重盲検プラセボ対照試験から、子宮頚管長25mm以下の女性966名(プロゲステロン腟剤群494名、プラセボ群472名)のデータが解析されました。プロゲステロン腟剤群では妊娠33週未満の早産リスクが有意に減少しました(RR 0.63、95%CI 0.48-0.82)。また、妊娠36週未満、35週未満、34週未満、32週未満の早産、自然早産、呼吸窮迫症候群、新生児合併症率・死亡率、出生体重2500g未満・1500g未満、NICU入院についても減少が認められました。妊娠30週未満および28週未満の早産についてもぎりぎり有意差が見られました(RR 0.70および0.68、いずれもP=0.05)。早産既往、プロゲステロン投与量、国籍による効果の差は認められませんでした。

私見

本研究は撤回論文を除外した上でプロゲステロン腟剤の効果を再確認した重要な報告です。子宮頚管長短縮は早産の重要な予測因子であり、プロゲステロン腟剤は比較的安全で実施しやすい介入法です。国内ではART治療目的で現在ルティナス、ルテウム、ワンクリノン、ウトロゲスタンが「生殖補助医療における黄体補充」が認可されており、今後、早産予防や不育症予防への適応の拡大を検討してほしいところです。早産予防のためのプロゲステロン腟剤使用方法は、子宮頚管長短縮を認めた妊娠16-24週頃から開始し、妊娠34-36週頃まで継続することが一般的です。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# プロゲステロン

# 予防介入

# 周産期合併症

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