はじめに
初期の胚分割の時に著しい断片化が生じて、胚盤胞到達率・妊娠率低下につながることがあります。透明帯と卵細胞質が糸状の構造物でくっついていて分割時に断片化を起こすことを事前に透明帯除去を行うことで胚質を改善できるかを検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
体外受精反復不成功症例では前核期での透明帯除去により、初期分割時の過剰な断片化を防ぎ、良好胚盤胞の獲得が可能となる可能性があります。
引用文献
Yumoto K, et al. F S Rep. 2024;5:385-93. doi: 10.1016/j.xfre.2024.08.011
論文内容
初期分割期での重度な断片化により妊娠困難な患者において、前核期での透明帯除去が良好胚および胚盤胞発生を改善するかを調査したExploratory investigationです。
後方視的に対照を設定(2016年1月〜2020年1月の従来治療データ)、前方視的に介入を実施(2020年2月〜2021年1月の新規治療期間)。介入研究では、同一患者由来の受精卵を透明帯除去群(101個)と保持群(72個)に分配。
主な適応症
・初回でないART治療歴
・良好胚盤胞発生率10%以下
・初期分割期に著しい断片化
・妊娠未成立症例
結果
透明帯除去胚は断片化が有意に減少し、以下のパラメータが改善:
<Day2のVeeck基準による胚評価>
– Grade 1(断片化≤20%):除去群 58.4%、保持群 23.6%
– Grade 2(>20%-<40%):除去群 32.7%、保持群 52.8%
– Grade 3(≥40%):除去群 8.9%、保持群 23.6%
<胚盤胞到達率>
– 除去群:66.3%
– 保持群:18.0%
<良好胚盤胞発生率(Gardner分類≥4BB)>
– 除去群:48.5%
– 保持群:6.0%
40歳以下・以上いずれでも同様の傾向を示しました。
私見
透明帯と胚の間に存在する糸状構造(perivitelline threads: PTs)が断片化の形成に関与している可能性を示唆しています。複数回治療で良好胚が得られない場合(初期分割期で継続的に高度な断片化を認める場合)で、代替治療にて治療予後が改善しない場合に検討してみてもよいかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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