体外受精

2025.02.14

胚透明帯除去による胚フラグメンテーション改善(F S Rep. 2024)

はじめに

初期の胚分割の時に著しい断片化が生じて、胚盤胞到達率・妊娠率低下につながることがあります。透明帯と卵細胞質が糸状の構造物でくっついていて分割時に断片化を起こすことを事前に透明帯除去を行うことで胚質を改善できるかを検討した報告をご紹介いたします。

ポイント

体外受精反復不成功症例では前核期での透明帯除去により、初期分割時の過剰な断片化を防ぎ、良好胚盤胞の獲得が可能となる可能性があります。

引用文献

Yumoto K, et al. F S Rep. 2024;5:385-93. doi: 10.1016/j.xfre.2024.08.011

論文内容

初期分割期での重度な断片化により妊娠困難な患者において、前核期での透明帯除去が良好胚および胚盤胞発生を改善するかを調査したExploratory investigationです。

後方視的に対照を設定(2016年1月〜2020年1月の従来治療データ)、前方視的に介入を実施(2020年2月〜2021年1月の新規治療期間)。介入研究では、同一患者由来の受精卵を透明帯除去群(101個)と保持群(72個)に分配。

主な適応症

・初回でないART治療歴
・良好胚盤胞発生率10%以下
・初期分割期に著しい断片化
・妊娠未成立症例

結果

透明帯除去胚は断片化が有意に減少し、以下のパラメータが改善:

<Day2のVeeck基準による胚評価>
– Grade 1(断片化≤20%):除去群 58.4%、保持群 23.6%
– Grade 2(>20%-<40%):除去群 32.7%、保持群 52.8%
– Grade 3(≥40%):除去群 8.9%、保持群 23.6%

<胚盤胞到達率>
– 除去群:66.3%
– 保持群:18.0%

<良好胚盤胞発生率(Gardner分類≥4BB)>
– 除去群:48.5%
– 保持群:6.0%

40歳以下・以上いずれでも同様の傾向を示しました。

私見

透明帯と胚の間に存在する糸状構造(perivitelline threads: PTs)が断片化の形成に関与している可能性を示唆しています。複数回治療で良好胚が得られない場合(初期分割期で継続的に高度な断片化を認める場合)で、代替治療にて治療予後が改善しない場合に検討してみてもよいかもしれません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 顕微授精(ICSI)

# 透明帯孵化補助(AHA)

# 卵子の評価

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

胚の再凍結・再生検が凍結融解胚移植の妊娠予後に与える影響(Fertil Steril. 2025)

2025.06.23

ART妊娠初期の超音波測定における基準値特性(F S Rep. 2024)

2025.05.21

胚生検における細胞数が妊娠予後に与える影響(Hum Reprod. 2025)

2025.03.24

胚移植カテーテルへの胚残留が妊娠・出産に与える影響(Fertil Steril. 2025)

2025.03.03

妊娠早期診断の血清hCG評価について(ACOG Practice Bulletin.2018)

2025.02.12

体外受精の人気記事

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

胚の再凍結・再生検が凍結融解胚移植の妊娠予後に与える影響(Fertil Steril. 2025)

受精卵・胚の形態評価に関する改訂ESHRE/ALPHAコンセンサス(Hum Reprod. 2025)

クロミフェン耐性PCOS女性の経腟的卵巣多孔術によるIVF改善効果(J Assist Reprod Genet. 2024)

GnRHアンタゴニスト投与中の早発LHサージリスク因子(Fertil Steril. 2014)

HRT周期凍結胚移植後の早期黄体補充中止でも生児獲得(当院報告:BMC Pregnancy Childbirth. 2024)

今月の人気記事

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)

2025.07.01

不育症に対する免疫グロブリン投与の有効性(J Reprod Immunol. 2025)

2025.07.02

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

妊活男性のストレスと精巣機能(Fertil Steril 2025) 

2025.07.05

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.25

抗酸化サプリメント高用量摂取のマウス精子を用いたリスク検証(F S Sci. 2025)

2025.07.04