はじめに
成熟卵子紡錘体は可視化されていたとしても、第一極体の近くに位置したり離れた位置に存在したりします。紡錘体可視化/位置/受精・胚発生との関連についてはいくつかの研究がありますが、調節卵巣刺激法の違いについては十分な検討がされていませんでした。こちらを調査した報告をご紹介いたします。
ポイント
調節卵巣刺激法によらず、卵子紡錘体の位置は受精率、胚盤胞到達率、妊娠率、生産率、流産率に影響を与えません。ただし、高齢女性では紡錘体が極体から離れた位置に存在する傾向があります。
引用文献
Inoue T, et al. Reprod Med Biol. 2024. doi: 10.1002/rmb2.12601
論文内容
調節卵巣刺激法の種類が卵子内紡錘体の可視化や位置に与える影響、およびICSI後の臨床成績への影響を調査することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
調節卵巣刺激法は、PPOS法、ロング法・ショート法、GnRHアンタゴニスト法で実施されました。最低2個の卵胞が18-20mmに達した時点で、ロング法、ショート法、GnRHアンタゴニスト法ではuhCGトリガーを、PPOS法ではuhCGとGnRHアゴニストを投与し、34-36時間後に採卵を行いました。
採卵後の卵子は、ヒアルロニダーゼ溶液でピペッティング、裸化処理後、ICSI前に極体直下をθ=0°とし、紡錘体位置を0〜180°で分類。
– θ=0°
– 0°<θ≤30°
– 30°<θ≤60°
– 60°<θ≤90°
– 90°<θ≤180°
結果
各刺激法において、紡錘体可視化卵子は非可視卵子と比較して正常受精率が有意に高く、紡錘体位置による差は見られませんでした。また、妊娠率、出生/継続妊娠率、流産率にも紡錘体の可視化や位置による差は見られませんでした。
多変量解析にて、高齢女性はθ=0°に比べ、紡錘体が30°以上離れた位置にある傾向があり、加齢と紡錘体の位置変化に相関が示唆されました。
私見興味深いのは、高齢女性では紡錘体が極体から離れた位置に存在する傾向が認められた点です。加齢卵子における極体の変性と紡錘体からの外れた位置にあることは過去の報告でも示されています。多大な時間がかかるだろう臨床ビッグデータでの解析結果は、本当に日常臨床に役立てやすいので本当にありがたい報告だなと感じています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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