はじめに
卵巣予備能低下患者では、一つでも多く卵子をとろうと卵巣刺激を強めたり、期間を延ばしたりすることが慣習的に行われています。もともとはGnRHアゴニスト・ショート法で行われることが多かったのですが、最近ではPPOS、GnRHアンタゴニストが調節卵巣刺激では多く用いられます。ただし、排卵のシグナルを無理に抑えることが本当に良いことかどうかはわかっていません。卵巣予備能低下女性におけるGnRHアンタゴニストによる早発LHサージのリスクについて記載した報告をご紹介いたします。
ポイント
卵巣予備能低下女性はGnRHアンタゴニスト周期で早発LHサージを起こしやすく、周期キャンセルのリスクが高くなります。
引用文献
Puneet Kaur Kochhar, et al. J Hum Reprod Sci. 2020 Jul–Sep;13(3):191–195. doi: 10.4103/jhrs.JHRS_133_19.
論文内容
GnRHアンタゴニスト法における早発LHサージ発生率と関連因子を特定することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
2014年12月1日から2018年11月30日までの間に、GnRHアンタゴニスト(セトロレリクス0.25mg/日)フレキシブルプロトコルを実施した患者全員が対象となりました。主要評価項目は早発LHサージ(ベースラインから2.5倍以上の増加でかつ17mIU/mL以上のLH値)で、E2の減少や超音波での自由液体の有無を伴うか否かも評価しました。
結果
GnRHアンタゴニスト・フレキシブル法を実施した692名の患者のうち、15名(2.16%)に早発LHサージが発生しました。早発サージを起こした患者は対照群と比較して、卵巣予備能が低く(高齢、Day2 FSH値が高く、胞状卵胞数が少なく、抗ミュラー管ホルモン値が低い)、ゴナドトロピン開始用量が高く(375±75 vs. 262.5±112.5単位/日、P=0.03)、総ゴナドトロピン投与量も多く(4125.5±1100.0 vs. 2362.5±1252.0 IU、P=0.0001)、刺激日数も長かった(11.1±2.4 vs. 8.8±2.6日、P=0.0001)。
ほとんどの場合、LH上昇から35時間後の経腟超音波検査で、卵胞の消失と自由液体の出現が確認されました。
私見
高齢であること、卵巣刺激を長くすることは、GnRHアンタゴニスト周期では早発LHサージ因子であることは間違いなさそうです。GnRHアンタゴニスト量を増やしてもあまり結果が変わらないという報告もありますので、競合阻害以外のメカニズムがあるのかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。