体外受精

2025.04.30

EMMA/ALICEによる子宮内細菌叢検査治療によるtime to pregnancy(Reprod Med Biol. 2025)

はじめに

腟内細菌数は一般的に 10⁸〜10¹⁰ CFU/mLであり、子宮内細菌数は 10²〜10⁴ CFU/mL 程度以下と報告されています。実際に子宮内細菌数は培養法では検出されないほど少ない場合も多く、次世代シーケンス(NGS)やqPCRなどの高感度解析でようやく検出されるレベルとなっています。腟内と子宮内では 約10⁴〜10⁸倍の差が菌数にはありますが、子宮内細菌叢は、着床や妊娠継続に重要な影響を与えることが示されています。
不妊患者における子宮内細菌叢に対してEMMA/ALICEを用いた評価・治療と生殖アウトカムの関連性について、多施設前向きで行った研究をご紹介します。当院で子宮内細菌叢検査を始めるきっかけとなった論文その2です。

ポイント

EMMA / ALICEに基づく抗菌薬とプロバイオティクス治療により、dysbiosis患者の妊娠までの期間が短縮され、36歳以上の高年齢患者でより顕著な治療効果が認められました。

引用文献

Nanako Iwami, et al. Reprod Med Biol. 2025 Feb 1;24(1):e12634. doi: 10.1002/rmb2.12634.

論文内容

反復着床不全または反復流産女性における、EMMA /ALICE推奨治療後の妊娠転帰を評価することを目的とした前向き多施設コホート研究です。日本国内14のIVFセンターで42歳未満527名を対象としました。子宮内膜サンプルをEMMA & ALICEを用いて分析し、検査結果に基づいて抗生物質、プロバイオティクス、または治療なしの方針を決定しました。妊娠転帰はカプラン・マイヤー生存分析と多変量一般化線形モデルを用いて評価されました。

結果

参加者のうち、43.4%(229名)は正常なLactobacillus優位の細菌叢を持ち、20.9%(110名)はdysbiosis、35.7%(188名)はmild dysbiosisまたはultralow biomassでした。治療プロトコルとしては、正常群は追加治療なしで胚移植に進み、dysbiosis群には検出された病原菌に基づいた抗生剤治療(アモキシシリン/クラブラン酸56.4%、メトロニダゾール40.9%など)とその後のプロバイオティクス治療が行われました。Mild dysbiosisまたはultralow biomass群にはプロバイオティクスのみが投与されました。
Dysbiosis群で最も多く検出された病原菌はGardnerella(41.2±19.3%、n=69)、次いでStreptococcus(33.8±26.4%、n=19)、Atopobium(28.0±23.0%、n=47)でした。1コースの抗菌薬治療後、dysbiosis群110名中77名(70%)で病原菌の除去が確認され、残りの患者も追加の抗菌薬治療コースにより菌叢プロファイルの改善が見られました。慢性子宮内膜炎の一般的な治療薬であるドキシサイクリンやシプロフロキサシンが必要とされたケースはありませんでした。
カプラン・マイヤー生存分析の結果、抗生物質とプロバイオティクスで治療されたdysbiosis群は、検査後6ヶ月時点(p=0.011)および12ヶ月時点(p=0.049)で他の群と比較して有意に早く妊娠しました。サブグループ分析では「EMMA異常/ALICE陰性」群が6ヶ月時点(p=0.02)で他のグループと比較して有意に早く妊娠しましたが、「EMMA異常/ALICE陽性」群ではこの傾向は見られませんでした。
年齢別の分析では、35歳以下では各群間に有意差はなかった(p=0.86)のに対し、36-40歳(p=0.036)および41歳以上(p=0.030)では、治療を受けたdysbiosis群が他群と比較して有意に早く妊娠しました。
累積妊娠率は3群間で有意差はなく(正常群47.6%、dysbiosis群48.2%、mild dysbiosis+ultralow biomass群49.5%、p=0.935)、多変量解析では、年齢のみが継続妊娠率に有意な影響を与える因子でした(オッズ比0.848、95% CI 0.806–0.890、p<0.0001)。

私見

「EMMA異常/ALICE陰性」群と「EMMA異常/ALICE陽性」群で異なる転帰が見られたことは、dysbiosisと慢性子宮内膜炎が区別して評価されるべき病態である可能性を示唆しています。
NGSベースの精密診断による個別化抗生剤アプローチは、広域抗生物質による治療と比較して、70%という高い病原菌除去率を1週間で達成することがわかったこともメリットです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 子宮内細菌叢検査

# 慢性子宮内膜炎

# ラクトバチルス

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

プロバイオティクスによる流産率低下と妊娠成績への影響(Sci Rep. 2023)

2025.05.12

反復着床不全女性の子宮内細菌叢改善に対する治療法(Reprod Biol. 2020)

2025.05.07

子宮内膜組織と子宮内腔液の細菌叢の違い(Clin Chem. 2018)

2025.05.01

子宮内細菌叢組成と不妊患者の生殖予後(Microbiome. 2022)

2025.04.28

子宮内細菌叢異常を見つけて抗生剤・Lactobacillus腟剤(Sci Rep. 2025)

2025.04.26

体外受精の人気記事

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

胚の再凍結・再生検が凍結融解胚移植の妊娠予後に与える影響(Fertil Steril. 2025)

クロミフェン耐性PCOS女性の経腟的卵巣多孔術によるIVF改善効果(J Assist Reprod Genet. 2024)

受精卵・胚の形態評価に関する改訂ESHRE/ALPHAコンセンサス(Hum Reprod. 2025)

HRT周期凍結胚移植後の早期黄体補充中止でも生児獲得(当院報告:BMC Pregnancy Childbirth. 2024)

GnRHアンタゴニスト投与中の早発LHサージリスク因子(Fertil Steril. 2014)

今月の人気記事

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)

2025.07.01

不育症に対する免疫グロブリン投与の有効性(J Reprod Immunol. 2025)

2025.07.02

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

妊活男性のストレスと精巣機能(Fertil Steril 2025) 

2025.07.05

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.25

抗酸化サプリメント高用量摂取のマウス精子を用いたリスク検証(F S Sci. 2025)

2025.07.04