体外受精

2025.05.12

プロバイオティクスによる流産率低下と妊娠成績への影響(Sci Rep. 2023)

はじめに

不妊治療を受ける女性において、子宮内ラクトバチルス菌優位な環境は、より高い妊娠率と関連していることが報告されるようになってきました。ラクトバチルス菌は過酸化水素や乳酸を産生し、腟内pHを4.5以下に維持することで病原菌の増殖を抑制し、着床に有利な環境を作り出す可能性があります。しかし、プロバイオティクス補充が凍結融解胚移植における妊娠成績にどう影響するかについては、まだ十分な結論はでていません。
凍結融解胚移植前の腟内プロバイオティクス補充の効果に関するランダム化比較試験をご紹介します。

ポイント

凍結融解胚移植前の腟内ラクトバチルス補充は生化学的・臨床的妊娠率を改善しませんが、流産率を有意に低減させます。

引用文献

Isarin Thanaboonyawat, et al. Sci Rep. 2023 Jul 23;13(1):11892. doi: 10.1038/s41598-023-39078-6.

論文内容

凍結融解胚移植前のLactobacillus補充有無による臨床成績を比較するランダム化比較試験として、2019年8月7日から2021年5月まで大学病院附属の生殖医療施設で実施されました。
340名不妊女性が無作為化され、生化学的および臨床的妊娠率は両群で同等でした(介入群では39.9%と34.2%、コントロール群では41.8%と31.7%)。しかし、流産率は介入群で有意に減少しました(9.5% vs. 19.1%、p = 0.02、OR 0.44、95%CI [0.23, 0.86])。
細菌性腟症と診断された49名女性のうち、介入群の生児出産率はコントロール群よりも高かったものの、統計的有意差はありませんでした(42.31% vs. 26.09%、p = 0.23、OR 2.08、95%CI [0.62, 6.99])。胚盤胞移植206名では、介入群の生児出生率がコントロール群よりも有意に高くなりました(35.71% vs. 22.22%、p = 0.03、OR 1.9、95%CI [1.05, 3.59])。

私見

これらの結果は、ラクトバチルスが着床後の妊娠維持により重要な役割を果たす可能性を示しています。
Gilboaらの先行研究では、新鮮胚移植周期において3日間のプロバイオティクス使用では妊娠率に有意差が生じませんでした(Gilboa, Y. et al. Reprod. Biomed. Online 2005)。
今回の研究が奏功したのは、凍結融解胚移植だったのか、プロバイオティクス使用が3日ではなく6日からだったのか、胚盤胞移植が多かったからなのか ここは興味深いどころです。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 流産、死産

# 細菌性膣症

# ラクトバチルス

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

反復着床不全女性の子宮内細菌叢改善に対する治療法(Reprod Biol. 2020)

2025.05.07

子宮内膜組織と子宮内腔液の細菌叢の違い(Clin Chem. 2018)

2025.05.01

EMMA/ALICEによる子宮内細菌叢検査治療によるtime to pregnancy(Reprod Med Biol. 2025)

2025.04.30

子宮内細菌叢組成と不妊患者の生殖予後(Microbiome. 2022)

2025.04.28

子宮内細菌叢異常を見つけて抗生剤・Lactobacillus腟剤(Sci Rep. 2025)

2025.04.26

体外受精の人気記事

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

胚の再凍結・再生検が凍結融解胚移植の妊娠予後に与える影響(Fertil Steril. 2025)

クロミフェン耐性PCOS女性の経腟的卵巣多孔術によるIVF改善効果(J Assist Reprod Genet. 2024)

受精卵・胚の形態評価に関する改訂ESHRE/ALPHAコンセンサス(Hum Reprod. 2025)

HRT周期凍結胚移植後の早期黄体補充中止でも生児獲得(当院報告:BMC Pregnancy Childbirth. 2024)

GnRHアンタゴニスト投与中の早発LHサージリスク因子(Fertil Steril. 2014)

今月の人気記事

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)

2025.07.01

不育症に対する免疫グロブリン投与の有効性(J Reprod Immunol. 2025)

2025.07.02

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

妊活男性のストレスと精巣機能(Fertil Steril 2025) 

2025.07.05

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.25

抗酸化サプリメント高用量摂取のマウス精子を用いたリスク検証(F S Sci. 2025)

2025.07.04