体外受精

2025.05.29

ART における個別化卵巣刺激のKPI(Fertil Steril. 2024)

はじめに

卵巣刺激を評価するためにOSI、FORT、ORR、FOIなどのKPIが用いられていますが、これらは卵胞発育の全工程を包括的に評価するには限界があります。今回、より個別化された卵巣刺激を実現するための改良・拡張されたKPIについてのexpert opinionをご紹介いたします。

ポイント

現行のKPIを拡張し、early FORT、modified FORT、mature FOIなどの新たな指標を導入することで、卵胞発育の各段階をより詳細に評価し、個別化されたART治療が可能になると期待されます。

引用文献

Sesh K Sunkara, et al. Fertil Steril. 2025 Apr;123(4):653-664. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.10.001.

論文内容

生殖補助医療における個別化卵巣刺激のための改良・拡張されたKPIについて評価することを目的としたexpert opinionです。卵巣刺激開始前の胞状卵胞数(AFC)と回収卵子数、その途中過程を評価する方法を検証しました。
現行のKPIとしては、OSI(Ovarian Sensitivity Index)、 FORT(Follicular Output Rate)、ORR(Oocyte Retrieval Rate)、FOI(Follicle-to-Oocyte Index)があります。しかし、卵胞発育(開始時、刺激開始直後、トリガー時、成熟性)の評価に特化したKPIが存在しないという課題があります。

結果

専門家グループは、現行のKPIを拡張して「early FORT」(卵巣刺激5-6日目での10-11mm以上の卵胞数をAFCに対する比率)と「modified FORT」(卵子成熟誘発時の12mm以上の卵胞数とAFCの比率)を含めることを推奨しました。卵子回収率については、トリガー時に2カテゴリー(12mm以上と16mm以上の卵胞)を含むように拡張し、すべての反応性を考慮することを提案しました。FOIについては、卵巣刺激5日目までのAFC評価に基づく「advanced FOI」として測定することを推奨しました。

私見

現在のART卵巣刺激における評価項目(KPI)

  1. OSI:Ovarian Sensitivity Index
    総ゴナドトロピン投与量 ÷ 回収卵子数
    目的: ゴナドトロピン投与量に対する卵巣反応性を評価
    利点: 臨床妊娠の独立した予測因子, 複数サイクルで高い一貫性
    欠点: AFCを考慮していない, FSH投与量のみを考慮(LHを考慮外)
  2. FORT:Follicular Output Rate
    トリガー時卵胞数(16-22mm)÷ 開始時のAFC(3-8mm)(%)
    目的: 卵巣刺激開始からトリガー日までの効果を評価
    正常値: 約80%が適切な反応、約30%が低反応
    利点: FSHに対する卵胞反応性の指標
    欠点: 中間評価な, 16mm未満の卵胞評価なし
    ⭕️ Early FORT
    Day 5-6(刺激開始後2-3日目)10-11mm以上の卵胞数 ÷ AFC
    ⭕️Modified FORT
    トリガー時12mm以上の卵胞数 ÷ AFC
  3. ORR:Oocyte Retrieval Rate
    回収卵子数 ÷ トリガー時卵胞数(%)
    ベンチマーク: 80-95%(Vienna Consensus)
    目的: トリガーと回収卵子の評価
    利点: トリガーへの反応を統合評価
    欠点: 卵胞サイズ指定なし
    ⭕️Modified ORR
    12mm以上の卵胞からの回収率
    16mm以上の卵胞からの回収率
  4. FOI:Follicle to Oocyte Index
    回収卵子数 ÷ AFC(%)
    正常値: >50%が正常、≤50%が低値
    目的: 卵巣刺激開始から回収卵子までの総合評価
    利点: 統合的評価
    欠点: トリガーや採卵技術の影響を受ける
    ⭕️Advanced FOI
    回収卵子数 ÷ Day 5までのAFC
    ⭕️Mature FOI
    成熟卵子数(MII) ÷ Day 5までのAFC

拡張されたKPIが臨床に導入されれば、治療の個別化がさらに進み、OHSS予防や治療成績向上につながる可能性があります。

文責:川井清考(WFC group CEO)

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# 卵巣刺激

# エビデンス評価

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