はじめに
採卵時に患者様の疼痛・出血・採卵時間などを考えると、生殖医療成績増加につながる卵胞までを穿刺し、発育できない卵子は穿刺しないことが一般的に行われています。ヒトでは、複数の卵胞が月経開始時に見えていても1つの卵胞しか育ってきません。それ以外の卵子はアトレジア(萎縮)を起こして変性していくと考えられています。 では、自然周期で排卵するときに小卵胞は既に変性しているのでしょうか。自然周期採卵において小卵胞採卵は生殖医療成績を改善するかどうかを調査した報告をご紹介します。
ポイント
自然周期採卵において直径3mm以上の小卵胞穿刺により、主席卵胞から卵子が得られない場合でも87.6%で卵子が得られ、12.8%で生児に至っています。
引用文献
Shokichi Teramoto, et al. Fertil Steril. 2016 Jul;106(1):113-118. doi: 10.1016/j.fertnstert.2016.03.015.
論文内容
2011年から2013年に自然周期体外受精を受けた女性771名を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。 非刺激周期において、主席卵胞が16~18mmに達した時点でブセレリン経鼻トリガーを実施し、主席卵胞からの採卵後に非主席卵胞(直径3~10mm)から可能な限り多くの卵子を採取しました。受精胚は良好胚盤胞に到達した時点で凍結保存し、別周期で凍結融解単一胚盤胞移植を実施しました。評価項目は初回体外受精周期に採卵された成熟卵子数を含めた生殖医療成績としました。
結果
771名の患者から、主席卵胞からは498個、非主席卵胞からは3,557個の回収卵子が採取されました。非主席卵胞由来の卵子の25%以上が成熟卵子であり、85.6%が受精し、165個の良質の胚盤胞と78例の生児出生に至っています。 主席卵胞卵胞から卵子が得られなかった患者298名のうち、非主席卵胞穿刺では261名(87.6%)で1個以上の卵子が得られ、非主席卵胞由来受精胚の38名(12.8%)で生児出生に至っています。主席卵胞から卵子が得られた患者473名では、非主席卵胞穿刺により1つ以上の卵子が得られた患者は414名(87.5%)非主席卵胞由来受精胚の37名(8.9%)(vs. 主席卵胞由来受精胚83名)が出生に至っています。 非主席卵胞からの生殖医療結果は卵巣予備能と正の相関を認めました。
私見
supplementに記載されていますが、11-15mmになると、成熟率が高いことがわかります。
3-10mm由来卵子のMII率 25.4%、MI率 9.1%、GV率65.6%
11-15mm由来卵子のMII率 86.6%、MI率 8.0%、GV率5.4%
16mm以上由来卵子のMII率 25.4%、MI率 3.1%、GV率1.3%
文責:川井清考(WFC group CEO)
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