はじめに
性腺毒性によるがん治療前の妊孕能温存目的の卵子凍結、様々な理由で妊娠・出産を先延ばしにしたい場合の選択的卵子凍結と世界的に実施件数が増加傾向にあります。卵子凍結を行なっても利用率が低いことが課題の一つに挙げられ、継続・廃棄の意思決定を把握しておくことが重要です。 卵子凍結をおこなった後、廃棄を決めた理由を調査した報告をご紹介いたします。
ポイント
凍結卵子の廃棄のタイミングは、出産が契機となることが一番であり、原因が特定できないケースが次に多くありました。金銭的な理由で継続を断念しなくてはいけない女性が一定数いることもわかりました。
引用文献
Amalia Namath, et al. J Assist Reprod Genet. 2023 Oct 5. doi: 10.1007/s10815-023-02962-1.
論文内容
2009年から2022年に卵子凍結を行い、後日廃棄した女性に対して廃棄した理由を調査したレトロスペクティブコホート研究です。
結果
卵子凍結保存を受けた女性5,010名のうち、201名(4%)が卵子廃棄を選択し、751名(15%)が胚移植のために卵子融解を選択されました。卵子凍結保存と廃棄の平均年齢はそれぞれ35歳と39歳でした。卵子廃棄を選択した201名のうち、出産契機71名(35%)、癌の増悪26名(13%)、死亡3名(1.4%)が理由でした。16名(8%)は卵子凍結保存継続の費用が理由で、8名(4%)は凍結卵子数が少なかったため廃棄を選択しました。10名(5%)が新たに体外受精を行うため、以前の凍結卵子の廃棄を決定しました。67名(33%)は原因が特定できませんでした。凍結卵子を廃棄した女性と廃棄しなかった女性を比較すると、凍結卵子を継続した女性はAMHが低値(2.7 vs 3.5ng/ml、p<0.001)でしたが、凍結卵子時年齢、凍結卵子数、BMIには差を認めませんでした。
出産契機に卵子廃棄を決めた71名は、21名が自然妊娠、50名は不妊治療をおこなって授かっています。50名中43名は凍結卵子を使用し妊娠、2名は自己卵子でうまくいかなかったためドナー卵子での妊娠に至っています。
私見
癌などによるメディカル卵子凍結もノンメディカルな卵子凍結も、理由を問わず、金銭的な理由で妊孕性を手放さなくてはいけなくなるのはサポートできる体制があればいいですね。 助成制度も徐々に拡充されつつあります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。