はじめに
排卵を抑制するためのプロゲスチン製剤を用いたPPOS法は、国内でかなり一般的な卵巣刺激法となってきています。ただし、全胚凍結を前提とした方法となるため、卵胞発育に応じて抑制方法をアンタゴニスト製剤とするかプロゲスチン製剤とするかを選択できるflexible PPOS法(fPPOS法)が行われるようになってきています。
卵巣予備能低下(DOR)の女性において、fPPOS法がGnRH antagonist法と比較して卵巣刺激による卵子凍結の治療結果を検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
卵巣予備能低下(DOR)の女性において、fPPOS法はGnRH antagonist法と同等の治療成績が示されました。
引用文献
Engin Turkgeldi, et al. Hum Fertil (Camb). 2022 Apr;25(2):306-312. doi: 10.1080/14647273.2020.1794060.
論文内容
卵巣予備能低下(DOR)の女性(fPPOS法実施27名、GnRH antagonist法実施54名)における生殖医療成績を比較検討したレトロスペクティブコホート研究です。
卵巣刺激方法はrFSH製剤300IU/日を周期2〜3日目より開始し、先行発育卵胞が14mmに達するか、血清E2値が200ng/mLに到達した時点で10mg/日の酢酸メドロキシプロゲステロン、もしくは0.25mg/日のGnRH antagonistを開始し、トリガー日まで継続しました。トリガーはrhCGを使用しています。
結果
刺激期間、下垂体抑制開始日、抑制期間は両群で同様であり、中央値はそれぞれ8日、5日、5日でした。fPPOS法群とGnRH antagonist法群において、それぞれ回収卵子数(4.0個 vs. 5.5個)、成熟卵子数(3個 vs. 4個)、凍結保存卵子数(3.0個 vs. 4.5個)、卵子成熟率(67% vs. 70%)でした。
下垂体抑制を開始した後のpremature LH surge(>10 mIU/mL)は、fPPOS群で4/27例、GnRH antagonist群で2/54例でした(p =0.19)。早発排卵はfPPOS群で1/27例、GnRH antagonist群で0/54例でした(p =0.91)。
私見
当報告の症例はfPPOS法(37歳 AMH 0.7ng/mL AFC 7個)、GnRH antagonist法(38歳 AMH 0.58ng/mL AFC 4個)でした。やはり途中からの排卵抑制はGnRH antagonist製剤≧プロゲスチン製剤といえるでしょう。ただし、患者様のQOL(注射の打つ回数や費用)を考慮すると、PPOS法は全胚凍結を検討されている患者様には有用な刺激法と思われますので、症例に応じて使用を検討していきたいと考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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