はじめに
PRP治療(Platelet-Rich Plasma)は、再生医療の一環として用いられる治療法です。この治療法では、患者自身の血液から血小板が豊富に含まれる血漿(PRP)を分離し、特定の患部に注入することで、組織再生を促進します。PRP注入は、生殖医療施設では子宮内膜菲薄化症例への子宮内注入から始まりましたが、最近では早発卵巣機能不全症例への卵巣注入などにも応用され始めています。
早発卵巣機能不全症例のように排卵が起きない場合には代替治療が限られるため、PRP卵巣注入は選択肢となり得ます。しかし、卵巣反応不良症例においてはPRP卵巣注入が効果的なのでしょうか。本研究ではその点を解析した報告をご紹介します。
ポイント
PRP卵巣注入は、卵巣反応不良症例に対して卵巣刺激後の成熟卵子数を増やす可能性があります。
引用文献
Marzieh Farimani, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2021 Sep 8;19(1):137. doi: 10.1186/s12958-021-00826-w
論文内容
PRP卵巣内注入を実施した基礎疾患のない卵巣反応不良女性を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。患者年齢、採卵時の回収卵子数・MI卵子数・MII卵子数・GV卵子数、血清AMH値、FSH値、LH値、エストラジオール値などを調査し、POSEIDON基準(第1群:年齢<35歳、AMH≧1.2ng/mL;第2群:年齢≧35歳、AMH≧1.2ng/mL;第3群:年齢<35歳、AMH<1.2ng/mL;第4群:年齢≧35歳、AMH<1.2ng/mL)に従って解析を行いました。
結果
96名383症例が対象となりました。PRP卵巣注入介入後の臨床検査値(血清LH、FSH、AMH、エストラジオール値)の変化は、ほぼすべての群で差がありませんでした(POSEIDONグループ2群でAMHが介入後低下)。一方、回収卵子数はPRP卵巣注入により全群で有意に増加しました(すべてP<0.05)。MII卵子については、グループ2(年齢≧35歳、AMH≧1.2ng/mL;すべてP<0.05)を除くすべてのグループで治療後に有意な増加が認められました。生殖補助医療を受けて臨床妊娠に至ったのは14/96(14.6%)でした。
私見
PRPには様々な因子(βFGF、FGF、EGF、VEGF、IGF-1、PDGF、TGF-β)が含まれており、卵子発育に影響を与える可能性があります。ただし、周期ごとの胞状卵胞数には介入がなくてもばらつきがあるため、ランダム化比較試験を行わなければ有用性についての明確な議論はできないと感じます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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