体外受精

2024.05.20

凍結精子の成績は?(Hum Reprod. 2024)

はじめに

精子凍結は、最初は1950年代にドライアイスで(Bunge and Sherman, 1953)、その後、1960年代に液体窒素で(Perloff et al. 1964)行われるようになりました。
凍結保存され融解された精子は、理論的にはその機能、生存率、運動能に影響を及ぼし、DNA損傷・酸化ストレスも高くなるとされています。
凍結射出精子使用の成績は低下するとするもの、変わらないとするもの多岐に渡りますが、患者背景が異なるため結論をだすことは難しくなっています。今回、卵子提供患者に限定した新鮮・凍結射出精子使用例の生児出生率および累積生児出生率を調査した報告をご紹介いたします。

ポイント

新鮮射出精子使用と比較して、凍結射出精子使用したドナーエッグを用いた顕微授精治療成績はわずかな減少にとどまる程度でした。

引用文献

María Gil Juliá, et al. Hum Reprod. 2024 May 9:deae088. doi: 10.1093/humrep/deae088.

論文内容

凍結射出精子使用は、卵子提供顕微授精周期における新鮮射出精子使用例と比較して、生児出生率および累積生児出生率に影響を与えるかどうか調査した報告です。
2008年1月から2022年6月までの37,041組のカップル、44,423件の顕微授精データを含むレトロスペクティブ多施設観察コホート研究です。凍結精子使用群には移植胚23,852個、顕微授精卵子108,661個が含まれ、新鮮精子使用群には移植胚73,953個、顕微授精卵子381,509個が含まれました。Fisherの正確検定およびカイ二乗検定を適宜用いて、初回胚移植あたり、総胚移植あたりで測定された転帰を群間で比較しました。Kaplan-Meier曲線は、顕微授精卵子1個あたり、移植胚1個あたり、および移植あたりの累積生児出生率をプロットし、Mantel-Cox検定を用いて群間で比較しました。

結果

凍結精子使用群は、新鮮精子使用群と比較して、初回胚移植あたり、胚移植あたり、それぞれ生化学的妊娠率(差:3.55%、2.56%)、臨床的妊娠率(差:3.68%、3.54%)、継続的妊娠率(差:3.63%、3.15%)共にわずかに低くなりました。生児出生率は新鮮精子使用群と比較して、凍結精子使用群で初回胚移植あたり4.57%、胚移植あたり3.95%低くなりました。凍結精子使用した場合、新鮮精子使用群に比べ、胚移植あたりの生化学的流産率が2.66%わずかに増加しました。これらの差はすべて、多変量解析後も統計的に有意となりました(調整後P≦0.001)。移植胚数および胚移植あたりの累積生児出生率には有意差を認めましたが、顕微授精卵子あたりでは差は認められませんでした(adjusted P = 0.071)。

私見

社会的な理由による精子凍結が選定療養で認められていますが、特別な理由を除いて、用意できるのであれば当日に用意した射出精子を用いる方が治療成績としては好ましいのだと思います。
社会的理由による精子凍結は限定的な使用であるべきだと考えています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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