男性不妊

2024.07.13

組み換え型hCG製剤投与によるマイクロTESE成績向上の試み 

研究の紹介

Recombinant gonadotropin therapy to improve spermatogenesis in nonobstructive azoospermic patients – A proof of concept study 

Laursen RJ, et al. Int Braz J Urol. 2022 May-Jun;48(3):471-481. doi: 10.1590/S1677-5538.IBJU.2022.9913. PMID: 35168313. 

非閉塞性無精子症患者の精子形成を改善させるための遺伝子組み換えゴナドトロピン療法-コンセプトを実証する臨床試験 

非閉塞性無精子症に対して、精巣内精子採取術での精子採取率向上のために、術前にホルモン療法を行うこころみは山口大学の白石教授らが報告しています(PMID: 22128297 DOI: 10.1093/humrep/der404)。この場合、HCG製剤として尿由来のもの(ゴナトロピン)が使用されてきました。尿由来のHCG製剤は、男子下垂体性性腺機能低下症の治療にも自己注射で利用されています。しかしながら、最近この尿由来のHCG製剤の供給が不足気味で影響が大きいため、組み換え型のHCG製剤が使えないかと考えている医療家は少なくないと思われます。この論文では、非閉塞性無精子症に対する精巣内精子採取(本研究では吸引術)の前に尿由来ではなく、組み換え型HCG製剤を投与した結果を示したパイロット研究的なものです。 

研究要旨

目的と背景は以下の通りです。原発性の精子形成障害に伴う非閉塞性無精子症(NOA)は、通常、治療不可能と考えられている男性不妊症の原因の一つです。しかし、ホルモン刺激により精巣内のテストステロン濃度を高め、精子形成を促進することで、自分の精子を用いた妊娠の可能性が高まることを示唆する報告があります。 

精子形成刺激のために組み換えHCG製剤(60マイクログラム)を週2回長期投与された8例のNOAの男性症例が対象となりました。これらの8症例は治療前に精巣精子吸引術(TESA)を受け、精子がないか、わずかな非生存精子を認めたのみでした。組換えヒトFSH製剤はFSH<1.5 mIU/mLとなった場合に考慮され、実際6症例で組換えヒトFSH 150-225 IUが週2回補充されました。T/E2比<10となった1症例にアナストロゾールが投与されました。 
その結果、遺伝子組換え型のゴナドトロピン(HCGおよびFSH)での治療後、2症例で射出精液中から、また別の2症例において精巣精子吸引術(TESA)により生存精子が採取されました。精巣から採取された精子はCell-Sleeper装置でガラス化凍結されました。射精された精子を用いた顕微授精による生児獲得2例、TESAで採取し凍結保存された後融解された精子を用いての顕微授精で生児獲得1例あり、さらに1例で妊娠継続中です。 

結論として、この研究から、NOAの男性において、精子提供に代わる選択肢として遺伝子組換え型ゴナドトロピンによるホルモン療法が考慮されうることが示されました。この研究結果を日常臨床に応用するには、大規模な研究での検討が必要です。

患者背景 

No.年齢既往歴精巣
左/右
mL
FSH
IU/L
LH
IU/L
E2
pmol/L
T
nmol/L
128停留精巣8/811.68.0111.018.2
230特になし10/88.36.482.814.1
338左鼠径ヘルニア修復術8/1237.0
11.9
<18.09.2
445特になし10/1015.16.544.76.2
533特になし12/1248.014.9<18.011.5
634アナボリックステロイド長期乱用15/1534.014.030.011.5
740特になし4/48.39.423.53.1
842
四肢麻痺

10/10
7.52.731.96.3

治療の結果 

No.精巣組織所見HCG投与量
(IU)
(開始時/最終)
FSH投与量 (IU)
(開始時/最終)
治療期間
(月)
ホルモン治療後の精子採取方法精子凍結自身の精子を使ったICSIでの妊娠
1Hypospermatogenesis1620/1080150/2259射出ありあり; 生産
2Early maturation arrest1620/1080150/1508なし
3Early maturation arrest1620/1080150/15010なし
4Sertoli cell only1620/2700150/15010なし
5Early maturation arrest1620/1620150/1509なし
6Late maturation arrest1620/810なし8射出ありあり; 生産
7Hypospermatogenesis1620/3240なし14TESAありあり; 生産
8Hypospermatogenesis1620/1080150/20015TESAありあり; 妊娠継続中

症例4はアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール)投与あり
症例5は精巣癌(セミノーマ)発症あり精巣摘除、提供精子を用いた体外受精にて生児獲得

筆者の意見

組み換え型HCG製剤を使って精子採取率が改善する可能性を示唆した研究で大変重要です。この研究で使われている組換え型HCGはOVITRELLEという製品でペン型のchoriogonadotropin alfaで投与量の調整ができる製品のようです。我が国での生殖医療で利用されているのはオビドレル(OVIDREL)もChoriogonadotropin Alfaですが、短回投与型で投与量の調整は基本的にはできないものです。ですので、我が国で利用しようと思っても剤形の違いからかなり難しいと考えられます。利用できる国は羨ましいですね。 
精子が得られた症例は、今回の論文でのNOA症例に行われていたTESAによる精巣生検組織でLate maturation arrestやHypospermatogenesisの症例でした。この結果は白石教授のご研究の結果と同様と思われます。 
今後このブログ上で、組み換え型HCG製剤関連のもっと大規模な研究の結果についてご紹介したいと思います。 

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長) 

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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