男性不妊

2025.09.27

プロバイオティクスで精索静脈瘤手術の効果が向上(J Res. Med. Sci., 2023)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル

精索静脈瘤手術後における精液所見へのプロバイオティクスサプリメントの効果:無作為化比較試験

英語タイトル

Effects of probiotic supplementation on semen parameters after varicocelectomy: A randomized controlled trial.

Asadi M, 他. J Res Med Sci. 2023 Oct 26;28:74. doi: 10.4103/jrms.jrms_392_23. PMID: 38152072; PMCID: PMC10751512.

はじめに

欧州泌尿器科学会の Male Sexual and Reproductive Health ガイドラインでは、男性不妊に関する部分のアップデートが行われ、その中で新たに「プロバイオティクス」に関する項目が設けられました(参考文献)。ガイドラインでは、 

「プレバイオティクス/プロバイオティクスの補充は、ホルモン分泌に影響を与え、フリーラジカルの除去を促進し、前立腺の微小環境を改善することで、間接的に精子機能を高める可能性がある」 

と紹介されています。しかし、その正確な作用機序はいまだ十分に解明されていません。 

今回は、このガイドラインに引用されている論文の2つ目をご紹介します。精索静脈瘤の治療の第一選択は外科的手術(精索静脈瘤結紮術)ですが、手術のみでは十分な改善が得られない場合があります。そのため、抗酸化物質やプロバイオティクスの併用によって、精子パラメータをさらに改善できる可能性が注目されています。近年では、プロバイオティクスが精液所見に良い影響を及ぼすことが報告されています。 

今回ご紹介する研究は、精索静脈瘤手術後にプレバイオティクス/プロバイオティクス(論文中ではプロバイオティクスと記載)を用いたランダム化比較試験により、精液検査所見の改善を示したものです。男性において、精索静脈瘤術後の「腸活」が妊活につながる可能性を示唆する結果といえます。

研究のポイント

プロバイオティクスは低コストで安全に使え、精索静脈瘤手術後の回復を後押しする可能性があります。

研究の要旨

背景

不妊治療におけるプロバイオティクスの使用は、新しい研究分野です。本研究の目的は、精索静脈瘤手術後におけるプロバイオティクスサプリメントの精液所見への効果を検討することです。

対象と方法

本研究には、顕微鏡下精索静脈瘤手術(低位結紮術)の適応となった不妊男性を対象としました。手術後、患者は無作為に2群に分けられました。38名にはプロバイオティクス(FamiLact®)を投与し、40名にはプラセボを3か月間投与しました。術前の精液パラメータと術後のパラメータを比較し、プロバイオティクスサプリメント補給の効果を評価しました。

結果

最終的に78名が研究に含まれました。年齢、BMI、不妊期間、ベースラインの精液検査所見において両群に有意差はありませんでした(P > 0.05)。しかし3か月後、精子濃度(33.7 ± 22.5 vs. 21.1 ± 16.1 ×10⁶/mL, P = 0.046)、正常形態精子の割合(15.0 ± 8.9 vs. 12.0 ± 11.5, P = 0.016)において、プロバイオティクス投与群で有意な改善が認められました。精液量と精子運動率についてはプロバイオティクス群が高い傾向を示しましたが、有意差は認められませんでした(P = 0.897, P = 0.177)。

結論

本研究から、精索静脈瘤手術後の短期間におけるプロバイオティクス使用が、精液パラメータの改善に追加的な利益をもたらす可能性が示されました。プロバイオティクスサプリメントは費用対効果に優れ、忍容性も良好であり、精索静脈瘤手術の治療成績を高める有望な選択肢となり得ます。

表.精索静脈瘤手術前後、およびプロバイオティクス投与の有無による精液所見の比較(平均値±標準偏差)
精液量 (mL)群内の比較 P値精子濃度
(×10^6/mL)
群内の比較 P値
プラセボ術前 (a)3.3 (1.5)0.10918.0 (11.0)0.007
術後3ヶ月 (b)3.4 (2.3)21.1 (16.1)
変化 (c)+0.1 (1.8) +3.0 (14.6) 
プロバイオティック術前 (d)3.0 (1.4)0.28816.3 (11.4)<0.001
術後3ヶ月 (e)3.9 (2.1)33.7 (22.5)
変化 (f)+0.9 (1.7) +17.3 (16.9) 
群間の比較 P値a対d0.694 0.734 
b対e0.897 0.046* 
c対f0.741 0.049* 
精液量 (mL)群内の比較 P値精子濃度(×10^6/mL)群内の比較 P値
プラセボ術前 (a)3.3 (1.5)0.10918.0 (11.0)0.007
術後3ヶ月 (b)3.4 (2.3)21.1 (16.1)
変化 (c)+0.1 (1.8) +3.0 (14.6)  
プロバイオティック術前 (d)3.0 (1.4)0.28816.3 (11.4)<0.001
術後3ヶ月 (e)3.9 (2.1)33.7 (22.5)
変化 (f)+0.9 (1.7) +17.3 (16.9)  
群間の比較 P値a対d0.694 0.734 
b対e0.897 0.046* 
c対f0.741 0.049* 

私見

論文の中では、プロバイオティクスと記載されていますが、実際は、FamiLactというシンバイオティクス(プレバイオティクス/プロバイオティクス)が用いられています。 

この研究では、精索静脈瘤の手術後にシンバイオティクス(プレバイオティクス/プロバイオティクス)を服用した患者さんで、精子の濃度と精子の形態が有意に改善することが分かりました。シンバイオティクス(プレバイオティクス/プロバイオティクス)を飲まない患者さんでも精液所見は改善していましたが、飲んだ場合さらに良くなっていました。副作用としては、治療群の1症例が鼓腸(お腹の張り)を理由に中止したのみあり、その他に特筆すべき有害事象は認められませんでした。シンバイオティクス(プレバイオティクス/プロバイオティクス)は副作用が少なく、費用も比較的安価で続けやすいサプリメントです。 

その効果の仕組みはまだ完全には解明されていませんが、ホルモン分泌の調整や酸化ストレスの軽減、前立腺環境の改善などが関与していると考えられています。 

今回の結果から、手術後の回復をさらに高めるための補助的な選択肢として、シンバイオティクス(プレバイオティクス/プロバイオティクス)の使用は有望であると考えられます。ただし、この研究は短期間での評価に限られており、妊娠率や長期的な効果については今後の研究が必要です。

参考文献

Minhas S, Boeri L, Capogrosso P, Cocci A, Corona G, Dinkelman-Smit M, Falcone M, Jensen CF, Gül M, Kalkanli A, Kadioğlu A, Martinez-Salamanca JI, Morgado LA, Russo GI, Serefoğlu EC, Verze P, Salonia A. European Association of Urology Guidelines on Male Sexual and Reproductive Health: 2025 Update on Male Infertility. Eur Urol. 2025 May;87(5):601-616. doi: 10.1016/j.eururo.2025.02.026. PMID: 40118737.

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 手術

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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