男性不妊

2026.06.27

男性妊活と腸活の新たなエビデンス:シンバイオティクスと抗酸化サプリの相乗効果(International Journal of Urology, 2025年発表)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル
特発性乏精子無力精子奇形精子症におけるシンバイオティクスおよびSperiGenサプリメント投与が精液所見に及ぼす影響の検討:二重盲検ランダム化比較試験

英語タイトル
Investigating the Effect of Synbiotic and SperiGen Supplementations on Spermatogram in Idiopathic Oligoasthenoteratozoospermia: A Double-Blinded Randomized Clinical Trial.

PubMedよりCitation
Zarehoroki A, 他. Int J Urol. 2026 Jan;33(1):e70255. doi: 10.1111/iju.70255. PMID: 41387285.

はじめに

近年、腸内環境が精巣機能に影響を及ぼす「腸活」が注目されていますが、最新の研究でその重要性が改めて示されました。本試験は、以前紹介した知見を一歩進め、臨床で汎用される抗酸化サプリメントとシンバイオティクスの併用効果を検証したランダム化比較試験です。単独投与と比較した検証であり、不妊治療の現場における実情に即した極めて重要なエビデンスと言えると思います。

研究のポイント

  • シンバイオティクス(FamiLact)と抗酸化サプリメント(SperiGen)の併用は、精液所見の改善に相乗的な効果をもたらします。 
  • 抗酸化剤単独と比較し、精子の前進運動率が向上し、DNA断片化指数(損傷)と非運動精子数は有意に減少しました。 
  • 特発性乏精子無力奇形精子症(iOAT)に対し、通常の抗酸化サプリメントにシンバイオティクスを加える臨床的優位性が示されました。 

研究の要旨

背景

男性不妊は、精子形成の量的・質的障害を含む多様な原因によって生じます。活性酸素種(ROS)は精子の運動性を低下させ、DNA損傷やアポトーシスを誘発しますが、抗酸化剤はこれを消去する作用を持ちます。本研究では、特発性乏精子無力奇形精子症(iOAT)患者に対し、経口シンバイオティクスと男性用マルチビタミン・ミネラルサプリメント(SperiGen)の併用が精液所見に与える影響を評価しました。

方法

iOATと診断された不妊男性73名を対象に、二重盲検ランダム化臨床試験を実施しました。患者を「SperiGen+プラセボ群」と「SperiGen+シンバイオティクス(FamiLact 500 mg/日)群」に無作為に割り付け、3ヶ月間投与しました。介入前後に精液パラメータを測定し、両群間で比較しました。

結果

シンバイオティクス併用群は、プラセボ群と比較して精子の前進運動率を有意に向上させ、DNA断片化率(DFI)を有意に改善しました(いずれもp=0.001)。また、非運動性精子の割合も有意に減少しました(p=0.018)。群内比較では、プラセボ群の非前進運動率を除き、両群ともすべての指標で介入前後に有意な改善が認められました。

結論

シンバイオティクスと抗酸化サプリメント(SperiGen)の併用は、抗酸化剤単独使用と比較して、精子DNA断片化の抑制、精子濃度および前進運動率の改善においてより高い効果をもたらすと考えられます。

図.精液所見、DFIの変化

私見と解説

今回の研究は、男性不妊における「腸内環境」の重要性を高いエビデンスレベルで示した注目すべき報告です。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでも取り上げられ始めたシンバイオティクスですが、臨床現場で広く用いられる抗酸化サプリメントとの併用によってさらなる相乗効果が得られる点は、非常に実践的な知見といえます。これは、腸内細菌由来のエンドトキシンが血流に入り性腺機能を低下させるとする「GELDING理論」を臨床的に裏付けるものでもあります。FamiLactに関する報告は今回で3例目となりますが、異なる施設での検証においても再現性が示されており、男性不妊治療の新たな選択肢として信頼性が高まりつつあります。なかでも、受精能に直接関わるDNA断片化指数の有意な改善効果は注目に値します。今後はより大規模な多施設共同研究によって、最終的な妊娠アウトカムへの寄与が明らかにされることを期待します。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# サプリメント

# 精子DNA損傷検査

# プレコンセプション

# 精液所見

# 総説、RCT、メタアナリシス

亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

「良かれと思って」が精子を傷つける?過剰な抗酸化サプリが招く「還元ストレス」の落とし穴 (F&S science、2025)

2026.05.23

micro-TESE不成功・無精子症の男性が、イソトレチノイン内服で自然妊娠——世界初の報告(Cureus、2025)

2026.05.16

無精子症・極少精子症に新たな光 ― イソトレチノインによる精子形成誘導の可能性 (J Assist Reprod Genet、2025)

2026.04.25

無精子症に新たな可能性 ― イソトレチノインによる精子形成誘導の試み (Asian J Andrology、2021)

2026.04.18

イソトレチノインは男性不妊を改善するのか?―乏精子・精子無力症に対する治療の可能性(Andrology、2017)

2026.04.04

男性不妊の人気記事

2021.09.11

日本の妊娠可能男性の精液基準値は?(BMJ Open. 2013)

2021.09.11

睡眠と精液検査② (論文紹介)

2022.08.13

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2021.07.13

精液検査 どこまで良いと妊娠しやすくなるの?_その1(Hum Reprod. 2021)

2021.07.13

サウナが男性精子形成に与える精液学的・分子学的影響(Hum Reprod. 2013)

2020.08.08

2024.03.09

射精の間隔は短い方が良い?

2024.03.09

今月の人気記事

自然周期での小卵胞採卵は生殖医療成績を改善する(Fertil Steril. 2016) 

2023.10.16

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2021.09.11

日本の妊娠可能男性の精液基準値は?(BMJ Open. 2013)

2021.09.11

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

睡眠と精液検査② (論文紹介)

2022.08.13

不妊ではない若年女性の自然妊娠する確率は?(Int. J. Environ. Res. Public Health 2020)

2020.08.14