男性不妊

2026.04.18

無精子症に新たな可能性 ― イソトレチノインによる精子形成誘導の試み (Asian J Andrology、2021)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル
イソトレチノインによる非閉塞性無精子症の治療:パイロット研究

英語タイトル
Isotretinoin for the treatment of nonobstructive azoospermia: a pilot study.

Amory JK, Muller CH, Walsh TJ. Asian J Androl. 2021 Sep-Oct;23(5):537-540. doi: 10.4103/aja.aja_18_21. PMID: 33762477.

はじめに

男性不妊、とくに無精子症に対する治療は現在でも限られています。精巣内精子採取術(TESE)などの外科的手技に依存せざるを得ない場合が多いものの、精子採取率は必ずしも高くなく、十分な治療とは言えないのが現状です。新たな治療戦略の開発が求められています。
本研究で取り上げられているイソトレチノインは、もともとニキビ治療薬として使用されている薬剤であり、日本においても自費診療で使用される機会があります。ビタミンA誘導体であるレチノイン酸が精子形成に重要な役割を果たすことに着目し、これまでに男性不妊症例に対する応用も報告され、コラムでも紹介しました。今回の研究は、非閉塞性無精子症に対する新たな治療アプローチとして、その有用性を検討したものです。

研究のポイント

イソトレチノインにより、非閉塞性無精子症患者の約半数で精子が検出されました。
一部症例ではTESE後の精子回収や妊娠・出生にもつながりました。
無精子症に対する新たな治療選択肢となる可能性が示唆されました。

研究の要旨

この研究は、非閉塞性無精子症の男性に対するイソトレチノイン治療の有効性を検討したパイロット研究です。対象は21~50歳の無精子症男性9例で、32週間にわたりイソトレチノイン(20 mgを1日2回)が投与されました。 

治療期間中、未遠心精液中で精子が確認されたのは1例のみでしたが、遠心後の精液ペレットでは9例中4例(44.4%)において精子が検出され、ベースラインでは認められなかった変化でした(P=0.04)。多くの精子は非運動性でした。 
また、1例では治療後のmicro-TESEにて精子が回収され、ICSIにより妊娠・健常児の出生に至りました。もう1例でもmicro-TESEにて精子採取が可能でした(ISCI未実施)。 
有害事象として1例にネフローゼ症候群が認められましたが、治療により回復しました。その他の副作用は軽微で一過性でした。 

この研究の結果から、イソトレチノインは一部の無精子症男性において精子形成を誘導する可能性が示唆されましたが、今後さらなる大規模試験が必要です。 

表. イソトレチノイン治療の主な結果 
項目結果
対象無精子症男性 9例
投与期間32週間
精子出現(未遠心)1/9例
精子出現(遠心後)4/9例(44.4%)
micro-TESE後精子採取2例で成功
妊娠・出生1例で健常児出生
主な副作用乾燥、脂質上昇、1例でネフローゼ症候群

私見

男性不妊に対する薬物治療は限られており、特に無精子症においては有効な内科的治療が乏しいのが現状です。そのような中で、今回の研究は精子形成そのものを促す可能性を示しており、非常に興味深く、今後が期待される治療といえます。
この研究の中で、これまでmicro-TESEで精子を採取できなかった症例において、イソトレチノイン治療後に精子の出現が認められ、再度のmicro-TESEによって精子採取が可能となり、その後ICSI-ETにより出生に至った症例が報告されています。術中写真において、精子形成を示唆する良好な精細管が確認されていた点も印象的でした。
一方で、本研究は少数例によるパイロットスタディであり、効果の再現性や適応となる症例の選別については、今後さらに検討が必要です。また、日本ではイソトレチノインは男性不妊治療として保険適用がなく、使用にあたっては慎重な判断が求められます。
さらに、本剤は催奇形性を有する薬剤であり、副作用として脂質異常や重篤な有害事象(本研究ではネフローゼ症候群)も報告されています。そのため、使用に際しては十分な説明と適切な管理が不可欠です。
現時点ではもちろん標準治療とは言えませんが、無精子症に対する新たな選択肢となり得る可能性があり、今後の研究の進展が期待されます。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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