治療予後・その他

2026.06.02

WHOによる不妊症の予防・診断・治療に関するガイドライン(Fertil Steril. 2026)

はじめに

不妊症は世界的にみると、生殖年齢の約6人に1人が生涯のいずれかの時点で不妊症を経験するとされ、その生涯有病率は17.5%、期間有病率は12.6%にのぼります。高所得国(17.8%)と低中所得国(16.5%)で有病率に明らかな差はなく、不妊症は地球規模の公衆衛生課題と位置づけられます。今回、WHOから初めて公表された不妊症の予防・診断・治療に関する包括的ガイドラインの勧告内容をご紹介いたします。

ポイント

WHOは不妊症の予防・診断・治療に関する世界初のガイドラインとして40項目の勧告と6項目のグッドプラクティスステートメントを発表しました。

引用文献

World Health Organisation Guideline Development Group for Infertility, et al. Fertil Steril. 2026 Feb. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.11.014.

論文内容

不妊症に悩む個人およびカップルに対して推奨される予防、診断、治療の介入を明らかにすることを目的とした、WHOによる初の包括的なガイドライン勧告のサマリです。

GDGは合計40の勧告と6つのグッドプラクティスステートメントを作成しました。

一般的管理に関するグッドプラクティスステートメント(n=6) 

  • 病歴・身体診察に基づく系統的かつ費用対効果の高い検査の選択 
  • 不妊症の個人およびカップルへの傾聴と心理社会的サポートの提供 
  • 利益・害・患者の価値観・実施可能性・コストに基づく治療決定 
  • 費用対効果を考慮した治療選択(最初に安価で有効な治療を提供) 
  • 臨床フォローアップ計画と治療中の潜在的リスク管理 
  • 不妊治療による妊娠転帰の記録 

予防に関する勧告(n=4) 

  • 生殖年齢の一般集団への不妊・妊娠に関する情報提供(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 不妊治療前および治療中の生活習慣に関する助言提供(条件付き勧告、確実性low) 
  • すべての喫煙者への簡易禁煙助言(30秒~3分)の提供(強い勧告、確実性moderate) 
  • 性感染症リスクと早期治療に関する情報提供(グッドプラクティスステートメント) 

診断に関する勧告 〈女性因子:排卵障害(n=3)〉 

  • 黄体中期血清プロゲステロン測定による排卵確認(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 視床下部下垂体卵巣軸関連ホルモン(FSH、LH、E2、T、TSH、PRL等)の評価(グッドプラクティスステートメント) 
  • 卵巣予備能診断は年齢に基づき、必要時はAFC、AMH、月経2~3日目FSHのいずれかを使用(条件付き勧告、確実性very low) 

〈女性因子:卵管疾患(n=1)〉 

  • 卵管疎通性評価にHSGまたはHyCoSyを使用(条件付き勧告、確実性low) 

〈女性因子:子宮腔異常(n=5)〉 

  • 3D USよりSIS(saline infusion sonohysterography/生理食塩水注入子宮卵管造影)を推奨(資源利用可能時は3D USも可)(条件付き勧告、確実性low) 
  • 2D USより3D USを推奨(条件付き勧告、確実性low) 
  • 2D USよりSISを推奨(条件付き勧告、確実性low) 
  • HSGよりSISを推奨(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 資源制約下では2D USまたはHSGを使用(条件付き勧告、確実性very low) 

〈男性因子(n=2)〉 

  • 1つ以上の精液所見がWHO基準範囲外の場合、最低11週間以上の間隔で再検(条件付き勧告、確実性very low) 
  • すべての精液所見がWHO基準範囲内の場合は再検不要(条件付き勧告、確実性very low) 

〈原因不明不妊(n=1)〉

以下の4つすべてを満たした場合に「原因不明不妊」と診断します。 

  • 12か月以上、避妊なしで通常の性交渉を続けても妊娠に至らない 
  • 男女両方とも問診・身体診察で異常所見がない 
  • 女性側で排卵があり、かつ卵管が通っていることが確認できている 
  • 男性側の精液検査がWHO基準範囲内である 
    (条件付き勧告、確実性very low) 

治療に関する勧告 〈PCOS(n=6)〉 

  • レトロゾールをCCまたはメトホルミンより推奨、レトロゾール+メトホルミン併用よりレトロゾール単独を推奨(条件付き勧告、確実性low~very low) 
  • レトロゾール非使用国ではCC+メトホルミン併用をCC単独またはメトホルミン単独より推奨(条件付き勧告、確実性moderate~very low) 
  • 生活習慣介入の助言(健康的な食事、運動、体重管理)(グッドプラクティスステートメント) 
  • 経口治療不成功例ではLODよりゴナドトロピンを推奨(条件付き勧告、確実性low) 
  • 経口治療・ゴナドトロピン不成功例では待機管理よりIVFを推奨(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 高プロラクチン血症ではブロモクリプチンよりカベルゴリンを推奨(条件付き勧告、確実性low) 

〈卵管疾患(n=5)〉 

  • 35歳未満で軽度~中等度(Hull and Rutherford grade I-II)はIVFより手術を推奨(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 35歳未満で重度(grade III)はIVFを推奨(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 35歳以上はIVFを推奨(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 卵管水腫にはIVF前に卵管摘除術または卵管結紮術(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 経腟的吸引術より卵管摘除術または卵管結紮術を推奨(条件付き勧告、確実性very low) 

Hull and Rutherford grade I-II(卵管疾患の重症度分類) 

英国のHullとRutherfordが提唱した卵管疾患の重症度分類で、腹腔鏡所見に基づきます。 
Grade I(軽度):卵管周囲の軽微な癒着のみ、卵管壁・線毛機能は温存 
Grade II(中等度):卵管周囲癒着あり、軽度の卵管狭窄、卵管壁の軽度肥厚 
Grade III(重度):広範な癒着、卵管水腫、卵管壁の高度肥厚、線毛機能喪失 

〈子宮中隔(n=1)〉 

  • 反復流産歴のない子宮中隔症例での子宮鏡下中隔切除は推奨せず(条件付き勧告、確実性low) 

〈男性因子・精索静脈瘤(n=4)〉 

  • 臨床的精索静脈瘤に対し待機管理より外科的または放射線学的治療(経皮的塞栓術)を推奨(条件付き勧告、確実性low) 
  • 外科的治療と放射線学的治療のいずれも使用可能(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 外科的治療では他の術式より顕微鏡下手術を推奨(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 非顕微鏡下手術では鼠径部または後腹膜アプローチのいずれも使用可能(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 抗酸化サプリメントについては使うことを推奨もしないが、使わないことも推奨しない(No recommendation) 

〈原因不明不妊(n=6)〉 

  • 第一選択:刺激なしIUIより待機管理(3-6か月)を推奨(条件付き勧告、確実性low) 
  • 第一選択:卵巣刺激併用タイミングより待機管理を推奨(条件付き勧告、確実性low) 
  • 第二選択:CCまたはレトロゾールによる卵巣刺激併用IUI(条件付き勧告、確実性low) 
  • 第二選択:ゴナドトロピンよりCCまたはレトロゾールによる卵巣刺激併用IUIを推奨(条件付き勧告、確実性very low) 
  • 第三選択:卵巣刺激併用IUI不成功例には待機管理よりIVFを推奨(条件付き勧告、確実性low) 
  • IVF施行時はICSIではなく通常IVFを推奨(強い勧告、確実性low) 

私見

本ガイドラインはWHOによる不妊症ガイドラインとして初めてのものであり、1993年のRowe PJらによる古典的なWHO不妊症診療マニュアル(Rowe PJ, et al. WHO Manual for the Standardized Investigation and Diagnosis of the Infertile Couple, 1993)以来の大きなアップデートとなります。男性・女性・原因不明不妊を一つのガイドラインで扱い、予防にも踏み込んだ点は本ガイドラインの大きな特徴です。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 精索静脈瘤

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

# 予防介入

# プレコンセプション

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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