
はじめに
オーストラリアでは2017年の出生の6.7%が不妊治療(卵巣刺激・人工授精・ART)による妊娠でした。従来、不妊治療薬や反復的な卵胞穿刺により卵巣がんやその他のホルモン感受性がんが増加するのではないかという懸念が長く存在してきました。一方で不妊の原因疾患や妊娠歴、高い社会経済的地位、低い喫煙率なども罹患に影響しうると考えられています。今回、28年間にわたるオーストラリアの人口ベースコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
不妊治療(卵巣刺激・人工授精・ART)を受けた女性の全がん罹患率は一般人口と同等でしたが、子宮体がん・卵巣がん・悪性黒色腫がやや増加し、子宮頸がん・肺がんは減少しました。
引用文献
Claire Melissa Vajdic, et al. JAMA Netw Open. 2026 Mar 10;9(3):e261332. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2026.1332.
論文内容
不妊治療(卵巣刺激・人工授精・ART)を受けた女性のがん罹患率を一般人口女性と比較することを目的とした、オーストラリアの人口ベースコホート研究です。人口ベースの行政・登録データを連結し、1991年から2018年に18~55歳で不妊治療(卵巣刺激・人工授精・ART)を受けた女性を同定しました。ART(IVF、ICSI)、卵巣刺激併用人工授精(IUI/OS)、クロミフェンによる排卵誘発の3コホートを設定し、年齢・地域・暦年でマッチさせた一般人口と比較して、標準化罹患比(SIR)と罹患率差を算出しました。
結果
合計417,984人が対象となり、ART 274,676人(65.7%)、IUI/OS 120,739人(28.9%)、クロミフェン 175,510人(42.0%)でした。
浸潤がん全体の罹患はART(SIR、1.00;95%CI、0.98–1.02)およびIUI/OS(SIR、0.99;95%CI、0.97–1.02)で一般人口と同等でしたが、クロミフェンコホートでは軽度上昇しました(SIR、1.04;95%CI、1.00–1.07)。
全コホートで子宮体がん(SIR、1.23–1.83)および上皮内・浸潤悪性黒色腫(SIR、1.07–1.15)の罹患が上昇し、子宮頸がん(SIR、0.52–0.61)および気管・気管支・肺がん(SIR、0.62–0.70)の罹患が低下しました。
卵巣がん罹患はART(SIR、1.23;95%CI、1.10–1.37)およびIUI/OS(SIR、1.18;95%CI、1.01–1.37)で上昇しました。上皮内乳がん罹患はARTコホートのみで上昇しました(SIR、1.24;95%CI、1.12–1.38)。浸潤性乳がんの罹患上昇は認めませんでした。罹患が上昇した浸潤がんの罹患率差はいずれも小さく(10万人年あたり1未満~6.51例)でした。
私見
子宮体がんについては、過去の3つの人口ベース研究(Venn A, et al. Lancet. 1999;Luke B, et al. Fertil Steril. 2015;Williams CL, et al. BMJ. 2018)では有意な過剰罹患を認めず、本研究は否定的な先行報告と異なる結果でした。一方、最大規模の先行研究(Williams CL, et al. BMJ. 2018)と同様に、未産婦での増加、治療回数との関連なし、type 1、特に endometrioid cancer に限局していたという特徴が一致しました。これは不妊の原因疾患や無排卵との既知の関連から予想されるとしています。
卵巣がんについては、英国のデータ(Williams CL, et al. BMJ. 2018)とは一致するものの、米国(Luke B, et al. Fertil Steril. 2015)や過去のオーストラリア報告(Venn A, et al. Lancet. 1999)とは一致せず、妊娠歴と不妊原因に基づくリスク管理が支持されるとしています。
悪性黒色腫の軽度増加は米国・オランダの報告(Luke B, et al. Fertil Steril. 2015;Spaan M, et al. Hum Reprod. 2015)と異なり、肌の色など選択バイアスの可能性が示唆されています。
乳がんは先行研究で所見が分かれており(無増加・上皮内のみ・減少)、全体としては安心できる結果で、MAR後に乳がん検診指針を変更する根拠にはならないとしています。
子宮頸がんと肺がんの減少は、検診・治療および低喫煙率(Tong VT, et al. J Womens Health. 2016)で説明され、本研究は肺・膵・腎・膀胱がんの減少を初めて示した点が新規性とされています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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