治療予後・その他

2026.04.20

帝王切開における術後ケアの最適化:ERAS Society 2025年版ガイドライン(Part 3)(Am J Obstet Gynecol. 2026)

はじめに

母体死亡の大部分は産褥期(第4期)に発生し、これらの死亡の多くは予防可能である可能性があります。本ガイドラインは2019年以来初めてとなるERAS Societyガイドラインの更新版であり、術後期における13のERAC介入に関する推奨事項を提示しています。早期回復促進、疼痛管理、合併症予防、退院支援など包括的な内容が含まれています。
国内の現状と完全に一致するわけではないことは医療資源や保険診療上の問題であることをご理解ください。

ポイント

早期飲食・離床、定期的アセトアミノフェン・NSAIDs投与、VTE予防、貧血改善、母乳育児支援、休息促進、退院支援の13項目により、帝王切開後の母体回復が最適化されます。

引用文献

Sultan P, et al. Am J Obstet Gynecol. 2026 Jan;226:S184-S198. doi: 10.1016/j.ajog.2025.01.038.

論文内容

目的・方法

本ガイドライン更新は2024年9月にERAS Society Guideline Committeeにより承認されました。文献検索はPart 1・2と同様の方法論で実施されました。

アウトカム

帝王切開後の術後ケアとして13の介入が推奨されました(すべて強い推奨)。

早期回復促進(1〜4) 

  1. 早期飲水・食事(エビデンス:低):麻酔後ケア室で経口食事を再開 
  2. 早期輸液中止(エビデンス:非常に低):経口摂取可能・尿量適切・子宮収縮薬終了後に中止 
  3. 早期離床・歩行(エビデンス:低):術後6時間で運動機能評価、監督下で歩行開始 
  4. 早期カテーテル抜去(エビデンス:低):術後6〜12時間、歩行後に抜去 

疼痛管理(5〜8)
5. 定期的アセトアミノフェン(エビデンス:中等度) 6. 定期的NSAIDs(エビデンス:高) 7. レスキューオピオイド(エビデンス:低):経口、必要時のみ、30 mg/日制限 8. 副作用対応プロトコル(エビデンス:低〜中等度):悪心→オンダンセトロン、戦慄→メペリジン、掻痒→ナルブフィン 

合併症予防・サポート(9〜11)
9. VTE予防(エビデンス:低):機械的予防を完全歩行まで継続 10. 貧血改善(エビデンス:中等度):Hb <7 g/dLまたは症状ありで輸血考慮、鉄欠乏性貧血は鉄補充 11. 母乳育児支援・教育(エビデンス:低):早期skin-to-skin、専任授乳専門家によるLATCH評価 

休息・退院準備(12〜13)
12. 休息期間の促進(エビデンス:低):介入のクラスタリングで睡眠障害最小化 13. 患者中心の退院支援(エビデンス:低):退院チェックリスト、標準化退院指示 

私見

本ガイドラインは術後ケアの標準化を目指す重要な更新です。以下、特に臨床的に重要な点について具体的に解説します。 

「早期」とはどれくらい早いか

従来と比較すると、飲食開始は24時間後→術後1〜2時間、輸液中止は24〜48時間後→6〜12時間、離床は翌日以降→術後6〜8時間、カテーテル抜去は24時間後→6〜12時間です。「できるだけ早く」ではなく、「従来の慣習より早く、かつ安全に」という意味です。 

輸液中止の判断基準

3つの条件が揃ったら中止を検討します:(1)経口摂取ができる(飲んでも吐かない)、(2)尿量が適切、(3)子宮収縮薬の点滴が終了。過剰輸液は浮腫増加、肺水腫リスク、点滴棒が歩行の妨げになる問題があります。 

ステップワイズ多角的アプローチについて

従来は「痛くなったら鎮痛薬を投与」でしたが、ERACでは「アセトアミノフェン+NSAIDsを定期投与し、オピオイドは最後の手段」とします。定期投与により痛みの「波」を防ぎ、オピオイドの副作用(悪心・眠気・便秘・呼吸抑制・授乳への影響)を最小化できます。 
Cochrane Reviewによると、アセトアミノフェン1000mg単独のNNTは3.6、イブプロフェン400mg単独は2.5ですが、両方併用では1.5と最も効果的です。両薬は作用機序が異なり(アセトアミノフェンは中枢、NSAIDsは末梢)、同時投与でも交互投与でも効果があります。 

LATCH評価について

母乳育児の状況を客観的に評価する10点満点のスコアリングシステムです。Latch(吸着)、Audible swallowing(嚥下音)、Type of nipple(乳頭形態)、Comfort(快適さ)、Hold(抱き方)の5項目を各0〜2点で評価します。帝王切開後は術後の痛み、麻酔の影響、点滴・カテーテルによる動きの制限、母子分離などで母乳育児が難しくなりやすいため、早期に問題を発見し専門家が介入することが重要です。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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