
はじめに
帝王切開は世界で最も一般的な外科手術の一つであり、術中ケアの最適化は母体・新生児の安全性向上に直結します。本ガイドラインは2019年版の初回更新であり、術中における10のカテゴリーの介入について、最新のエビデンスに基づく推奨を提示しています。予防的抗生剤投与、麻酔管理、体温維持、多角的鎮痛法など、実践的な指針が含まれています。
国内の現状と完全に一致するわけではないことは医療資源や保険診療上の問題であることをご理解ください。
ポイント
予防的抗生剤、腹部・腟消毒、脊麻低血圧予防、正常体温維持、子宮収縮薬最適化、多角的鎮痛法、早期skin-to-skinケアの10項目により、術中の安全性と術後回復が最適化されます。
引用文献
Caughey AB, et al. Am J Obstet Gynecol. 2026 Jan;226:S170-S183. doi: 10.1016/j.ajog.2025.02.040.
論文内容
目的・方法
本ガイドラインは2024年9月にERAS Society Guideline Committeeにより承認され、Part 1と同様の方法論で作成されました。
アウトカム
帝王切開における術中ケアとして10カテゴリーの介入が推奨されました。
1. 手術室での付き添い者の存在(エビデンス:非常に低、推奨:強)
帝王切開中、患者のパートナーまたは付き添い者の存在を許可することを否定していません。
2. 予防的抗生剤投与(エビデンス:中等度〜高、推奨:強)
第一世代セファロスポリンを皮膚切開前60分以内に投与します。緊急帝王切開ではアジスロマイシンを追加(エビデンス:高)、肥満患者では術前アジスロマイシン追加または術後48時間の経口セファレキシン+メトロニダゾールを検討します(エビデンス:中等度)。
3. 腹部・腟消毒(エビデンス:中等度〜低、推奨:強)
腹部はクロルヘキシジンベースの消毒薬、腟はクロルヘキシジンまたはポビドンヨードで消毒します。
4. 制吐剤予防投与(エビデンス:低、推奨:強)
2剤併用(5HT-3拮抗薬+デキサメタゾンまたはドパミン拮抗薬)が推奨されます。
5. 脊椎麻酔誘発性低血圧予防(エビデンス:中等度〜低、推奨:強)
可変速度昇圧薬注入+晶質液同時投与が推奨されます。フェニレフリンまたはノルエピネフリンがエフェドリンより新生児アシドーシスが少ないとされています。
6. 正常体温維持(エビデンス:中等度、推奨:強)
加温輸液+強制温風装置の使用が推奨されます。
7. 適正水分管理(エビデンス:低、推奨:強)
周術期の過剰または過少な水分投与を避けるべきです。
8. 子宮収縮薬の最適使用(エビデンス:中等度、推奨:強)
予定帝王切開では初回ボーラス1単位、救援3単位、維持2.5〜7.5単位/時、陣痛中帝王切開ではボーラス3単位、救援3単位、維持7.5〜15単位/時が推奨されます。
9. 多角的鎮痛法(エビデンス:高〜低、推奨:強〜弱)
くも膜下モルヒネ50〜150 μg(高・強)、アセトアミノフェン術前/術中(中等度・強)、NSAIDs術中(高・強)、デキサメタゾン術中(低・弱)、くも膜下モルヒネ未使用時の補助的局所ブロック(高・強)が推奨されます。
10. 早期skin-to-skinケア(エビデンス:中等度〜非常に低、推奨:強〜弱)
母乳育児促進と出生後適応促進のため、術中からの早期skin-to-skinケアが推奨されます。
私見
本ガイドラインは術中ケアの標準化に有用な指針です。特に重要な項目について解説します。
多角的鎮痛法について
「多角的鎮痛法」とは、いろいろな麻酔法の併用ではなく、複数の鎮痛薬・鎮痛法を組み合わせることです。単一の薬剤(例:オピオイドのみ)で痛みを抑えると高用量が必要となり副作用が増加しますが、複数を併用することで各薬剤を低用量で使用でき、異なる機序で痛みをブロックするため効果的です。
具体的には、くも膜下モルヒネは脊髄レベルで、アセトアミノフェンは中枢(脳)で、NSAIDsは末梢(創部)で作用し、複数のポイントで痛みをブロックします。
術中デキサメタゾンについて
デキサメタゾンは鎮痛薬ではなくステロイドですが、抗炎症作用により間接的に痛みを軽減します。NSAIDsがプロスタグランジン合成を阻害するのに対し、デキサメタゾンは炎症反応全体(プロスタグランジン+炎症性サイトカイン)を上流でブロックします。また制吐作用もあり、痛みと悪心の両方を減らせる一石二鳥の効果があります。「考慮」とされているのは、効果はあるものの血糖上昇の懸念がありエビデンスがまだ十分でないためです。
予防的抗生剤について
Tita AT, et al.(N Engl J Med, 2016)のC/SOAP Trialにより、緊急帝王切開でのアジスロマイシン追加の有効性が報告されています。肥満患者については、Valent AM, et al.(JAMA, 2017)のRCTで術後経口抗生剤の有効性が示されています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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