治療予後・その他

2026.07.21

新生児期Hirschsprung病手術を受けた女性の性機能・QOL(BJS. 2021)

はじめに

Hirschsprung病は腸管遠位部に神経節細胞を欠く先天性疾患で、男女比は約3:1と男児に多くみられます。これまで本疾患の長期的な機能予後やQOLに関する報告はありましたが、性機能や妊孕性、特に女性に関するデータはきわめて限られていました。今回、単一施設のコホートにおいて成人期の性機能・QOL・妊孕性アウトカムを横断的に調査した研究をご紹介いたします。

ポイント

新生児期にHirschsprung病手術を受けた女性は性交痛・性的QOL低下・妊孕性低下のリスクが高く、特に腸管機能不良例で顕著でした。

引用文献

Davidson JR, et al. BJS. 2021 Feb;108(2):e79-e80. doi: 10.1093/bjs/znaa108.

論文内容

Hirschsprung病に対する新生児期手術後の成人期予後、特に性機能・QOL・妊孕性アウトカムを単一施設コホートで横断的に評価することを目的としました。
成人患者に対して包括的長期アウトカム研究の一環として、多領域にわたる性機能・妊孕性・性的QOL質問票(SQOL)(Appendix S1)への回答を依頼しました。データは中央値(IQR)または平均値(SD)で示しました。

結果

合計137名(女性41名、年齢中央値29歳(25–34))が性機能・妊孕性に関する質問票を返送しました。安定した交際関係にある割合は男性72%(69/96)、女性56%(23/41)でした(P=0.078)。性経験ありは男性92%(88/96)、女性93%(38/41)で、性交開始年齢中央値はともに17歳(16–19)(男女間 P=0.431)でした。
Erectile Harness Scoreによる評価では男性の97%(91/94)が挿入に十分な勃起を有しており、9%(8名)が時折の射精時の問題を訴え、2名に逆行性射精を認めました。1名は無オルガスム症と勃起欠失を伴い、腸管機能不良および精神疾患既往を有していました。術後合併症や再手術の有無は勃起・射精機能障害との関連を認めませんでした。
女性回答者の初経年齢中央値は13歳(12–14)で、19歳の遅発初経が1例ありました。頻回の性交痛は性活動のある女性38名中19名(50%)に認められ、腸管機能不良群7名全員に認められました(他31名中12名と比較、P=0.008)。
妊活を試みた男性36名のうち、自然妊娠が30名(83%)に得られ、体外受精で成功したのは3名(8%)でした。一方、妊活を試みた女性17名では自然妊娠は8名(47%)にとどまり、さらに3名(18%)が体外受精後に妊娠しました。多変量解析では女性であることのみが妊孕性低下と関連しました(OR 10.34, 95%CI 2.19–48.83, P=0.003)。一方、手術合併症(再手術、吻合部漏出、緊急開腹手術の必要性)や腸管機能不良はリスク因子として認められませんでした。
性的QOL質問票(SQOL)には、性活動のある男性85名と女性36名が回答しました。男性のスコア中央値は100(86.4–100)で、正常集団平均から–1SD未満が16名(19%)、–2SD未満が12名(14%)でした。一方、女性のスコア中央値は77(62.5–85)で、–1SD未満が17名(47%)、–2SD未満が8名(22%)と、女性で低スコアの割合が高くなりました(–1SD未満の男女比較:OR 3.85, 95%CI 1.65–9.04, P=0.002)。
正常集団との比較でも、男性は差を認めませんでした(88.2±19.7 vs. 87.1±13.7, P=0.655)が、女性は有意に低下していました(71.9±20.7 vs. 90.7±15.0, P<0.001, Hedge’s g=1.0、large effect)。
多変量解析では、SQOL低下(–2SD未満)は腸管機能不良と独立して関連していました(OR 5.8, 95%CI 1.2–27.6, P=0.027)。性別や交際関係の有無、再手術・緊急手術の既往は関連を認めませんでした。

私見

新生児期Hirschsprung病手術を受けた成人女性において、性的QOL(SQOL)の有意な低下を初めて定量的に示した点で重要な報告です。女性のSQOLスコアは正常集団より20点近く低く、Hedge’s g=1.0と大きな効果量を示しました。約半数が正常下限を下回り、5人に1人は–2SD未満という深刻な低下でした。一方、男性では正常集団との差を認めませんでした。

注目すべきは多変量解析の結果で、SQOL低下と独立して関連したのは性別ではなく「腸管機能不良」(OR 5.8)であった点です。便通障害や失禁といった腸管症状が性生活の質に直接影響することは、潰瘍性大腸炎術後患者でも報告されており(Waljee A, et al. Gut. 2006)、Hirschsprung病女性で性交痛が高頻度(50%、腸管機能不良群では100%)に認められた事実とも整合します。著者らはpull-through手術による骨盤内癒着がその背景にあると推測しています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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