男性不妊

2026.05.16

micro-TESE不成功・無精子症の男性が、イソトレチノイン内服で自然妊娠——世界初の報告(Cureus、2025)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル
顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)不成功後の男性におけるイソトレチノイン使用後の自然妊娠

英語タイトル
Spontaneous Pregnancy After Isotretinoin Use in a Man After Unsuccessful Microdissection Testicular Sperm Extraction.

PubMedよりCITAtion, PMIDも.
Jaber Z, 他. Cureus. 2025 Nov 14;17(11):e96813. doi: 10.7759/cureus.96813. PMID: 41245911.

はじめに

非閉塞性無精子症(NOA)の治療において、これまでイソトレチノインを投与した後にIVFやICSIなどのARTを組み合わせることで妊娠に至った報告はありましたが、ARTを利用せずに自然妊娠が成立したという報告は本症例が世界初となります。micro-TESEでも精子が得られなかったNOA患者さんに対して、内服薬のみで自然妊娠という結果を得た本症例は、従来の治療の限界を超える可能性を示す貴重な報告です。今回のコラムでは、その詳細と臨床的意義についてご紹介します。

研究のポイント

  • micro-TESEで精子が得られなかったmaturation arrestのNOAの男性に対し、イソトレチノイン10mg/日を6ヶ月投与したところ、精子濃度と運動率が著明に改善しました。 
  • イソトレチノイン投与後に補助生殖医療(ART)を一切使用せず自然妊娠が成立し、妊娠16週時点でも胎児の正常発育が確認されました。 
  • 本報告は、micro-TESE不成功・成熟停止型NOAの男性においてイソトレチノイン投与後に自然妊娠が得られた世界初の症例であり、NOAに対する新たな非侵襲的治療戦略の可能性を示しています。 

研究の要旨

この症例報告では、組織学的に後期成熟停止を確認された非閉塞性無精子症(NOA)の男性で、顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE)が不成功に終わった後、イソトレチノインによる治療を経てパートナーが自然妊娠に至った症例を報告しています。本症例ではMicro-TESE後6ヶ月間イソトレチノインによる治療を受け、補助生殖技術を使用することなく自然に妊娠に至りました。
本症例は、外科的精子採取が不成功であったにもかかわらず、NOAの男性においても精子産生が改善される可能性を示唆しています。イソトレチノインが非侵襲的かつコスト効率の高い潜在的な治療薬となり得ることを示しています。単一症例からは因果関係を断定することはできませんが、本症例の結果は、今後の前向き研究による検討を十分に後押しする内容だと考えます。

図表

私見

NOAのなかでも成熟停止(maturation arrest)は、精細管内に初期の精子形成細胞は存在しているものの、精子細胞や精子への分化・成熟が途中で止まってしまう病態です。Micro-TESEはNOAに対する最も感度の高い外科的精子採取法ですが、精子が得られなかった場合、治療の終わりとされることが少なくありません。
今回の症例では、そのmicro-TESEでも精子がまったく得られなかった男性が、イソトレチノイン(13-cis レチノイン酸)の投与を受けたところ、6ヶ月後には精子濃度100万/mL・運動率30%、9ヶ月後には精子濃度150万/mL・運動率38%まで精液所見が改善し、最終的にARTを使用せず自然妊娠が成立しました。この経過は非常に意義深いものです。
イソトレチノインが精子形成に寄与するメカニズムとしては、レチノイン酸(RA)シグナル経路の活性化が挙げられています。RAは精原細胞の分化誘導や減数分裂への移行など、精子形成の根幹を制御しており、成熟停止型NOAではこのシグナル伝達の異常が一因である可能性があります。イソトレチノインがそのシグナルを補完・回復させることで、停止していた精子形成ラインが再起動したと考えられます。
もちろん、単一の症例報告であるため因果関係の証明には限界があり、今後はランダム化比較試験(RCT)による有効性・安全性の検証が必要です。しかし、micro-TESE不成功のNOAという従来であれば治療終了とされてきた状況において、内服薬のみで精液所見の改善と自然妊娠という結果が得られた本報告は、NOA治療のパラダイムシフトにつながる可能性を秘めた重要な一歩だと考えます。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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