はじめに
男性不妊の精液所見異常原因は多因子で複雑ですが、嗜好品ふくめた生活習慣、熱暴露などが主要因として挙げられます。市場には多数の抗酸化妊活サプリメントが存在しますが、その多くが高用量の抗酸化物質含有を特徴としています。では、抗酸化サプリメントはとればとるだけ精液に対して良い影響を与えるのでしょうか。マウスを用いて行った研究をご紹介いたします。
ポイント
抗酸化サプリメントはとればとるだけ精液所見に良い影響を与えるわけではなさそうです。
高用量の抗酸化物質は還元ストレスを誘発し、健康な男性マウスにおいて精子DNA損傷と妊孕性低下を引き起こすため、酸化ストレス評価に基づく個別化された抗酸化物質投与が重要です。
引用文献
Aron Moazamian, et al. F S Sci. 2025 Feb 25:S2666-335X(25)00018-7. doi: 10.1016/j.xfss.2025.02.004.
論文内容
一般的に安全とされる抗酸化微量栄養素補充が精液パラメータ、全身酸化還元バランス、精子DNA、妊孕性に与える影響を調査することを目的としたマウス研究です。健康なマウスと不妊で酸化ストレス状態のマウスを用いて、一般的な水溶性抗酸化微量栄養素(ビタミンC、葉酸、カルニチン)+亜鉛の用量漸増実験を1精子形成周期にわたって実施しました。精子パラメータには精子数、運動性、生存性、先体完全性を評価し、全身酸化還元状態は血液中のマロンジアルデヒド、チオール値、総抗酸化能で評価しました。精子DNAパラメータは酸化(8-OHdG染色)、断片化(TUNEL)、脱凝縮(トルイジンブルー)について検査し、カルニチン投与マウスでは妊娠転帰も評価しました。
結果
健康なマウスでは、個々の微量栄養素の増量は精液パラメータに最小限の影響しか与えませんでした。しかし、4つの微量栄養素すべての高用量投与は血漿中の酸化還元バランスを有意に破綻させ、成分特異的な方法で精子DNA断片化を誘発しました。カルニチンの中等-高用量投与は重篤なDNA断片化を引き起こしました。カルニチン補充を受けた雄マウスを雌マウスと交配させたところ、妊娠率の低下と総出生仔数の減少が認められました。対照的に、酸化ストレス状態のマウスでは、高用量カルニチンは反対に精子DNA断片化を改善する効果を示しました。
私見
健康な状態では高用量抗酸化物質が還元ストレスを引き起こし、精子DNA損傷を悪化させる一方で、酸化ストレス状態では同じ物質が保護的に働きます。これは臨床現場でしばしば見られる現象と一致しており、抗酸化サプリメントの無差別使用への警鐘となります。
「異常があれば介入」というのを大前提に、男性不妊の臨床においても最低限の微量元素の補充はよいとして、それ以上の介入に関しては精液検査・酸化ストレス検査ありきで、フォローアップをしていく環境がよいのかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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