
はじめに
凍結融解胚移植では、プロゲステロン投与前、胚移植時の内膜厚が生殖医療成績に影響するということがわかっています。現在までの結論としては過剰に薄い・厚いではなければ成績にそこまで大きな影響を与えないというのがコンセンサスとなっています。同時にでてきたのが、プロゲステロン投与前、胚移植時の内膜厚変化に対する議論です。プロゲステロン投与により内膜が薄くなる「内膜compaction」が良好な妊娠予後と関連するという報告がある一方で、関連性を認めない報告もあり、一致した見解が得られていませんでした。今回、16,000症例を超える大規模データによる解析結果が報告されましたのでご紹介いたします。
ポイント
内膜compactionは生殖医療成績改善と関連せず、むしろ内膜厚増加が Day3胚移植において生児出生率の向上と関連することが示されました。
引用文献
Pan P, et al. Hum Reprod Open. 2025. doi: 10.1093/hropen/hoaf039
論文内容
プロゲステロン投与後の内膜厚変化が凍結融解胚移植(Day3胚および胚盤胞)の妊娠予後に与える影響を検討することを目的とした単施設レトロスペクティブコホート研究です。2018年1月から2022年12月に実施された9,390周期のDay3胚移植と7,063周期の胚盤胞移植を対象とし、プロゲステロン投与日の内膜厚(EMT1)と胚移植日の内膜厚(EMT2)の変化により、compaction群、非変化群、増加群の3群に分類して解析しました。
黄体補充方法: 全症例において統一されたHRT周期を適応しました。月経周期3-6日目にエストラジオール(プロギノバ2mg)を1日2回から開始し、4日後に1日2回3mgに増量しました。エストラジオール投与10日後に経腟超音波で内膜厚を評価し、8mm以上または過去の周期より厚い場合、プロゲステロン筋注40mgを1日1回投与開始し、翌朝からジドロゲステロン(デュファストン)10mgを1日2回併用しました。胚移植後は、クリノン8%ゲル90mgを1日1回に変更して黄体補充を継続しました。
結果
逆確率重み付け調整後の解析を行いました。
Day3胚移植ではcompaction群で最も低いhCG陽性率(55.8% vs 58.0% vs 60.7%、p=0.012)、臨床妊娠率(46.8% vs 48.8% vs 52.5%、p<0.001)、継続妊娠率(38.0% vs 40.6% vs 44.2%、p<0.001)、生児出生率(36.7% vs 39.6% vs 43.3%、p<0.001)を示しました。hCG陽性症例中では、compaction群で最も高い異所性妊娠率(3.5% vs 2.6% vs 1.6%、p=0.015)と最も低い生児出生率(65.8% vs 68.3% vs 71.4%、p=0.018)を認めました。増加群では非変化群と比較して生児出生率の向上と関連していました(OR 1.166、95%CI: 1.070-1.271、p=0.001)。
胚盤胞移植では、compaction群で最も低いhCG陽性率(61.8% vs 66.5% vs 68.9%、p=0.001)を示しましたが、生児出生率に有意差は認められませんでした。
私見
内膜compactionと妊娠予後の関連について、Haas ら(Fertil Steril 2019)は内膜compactionが良好な継続妊娠率と関連すると初めて報告しました。その後、Zilberberg ら(Fertil Steril 2020)は染色体正常胚移植において内膜compactionが継続妊娠率を改善すると報告し、Youngster ら(J Assist Reprod Genet 2022)も自然周期凍結胚移植において内膜compactionが臨床妊娠率および継続妊娠率の向上と関連すると報告しました。一方で、Riestenberg ら( J Assist Reprod Genet 2021)は染色体正常単一胚移植において内膜compactionと生児出生率に関連を認めないと報告し、Shah ら(Hum Reprod 2022)も同様の結果を示すなど、相反する報告が続いていました。
今回の大規模解析では内膜compactionの有用性は否定的であり、Chen ら( Front Endocrinol 2023)およびTurkgeldi ら( J Assist Reprod Genet 2023)と同様の結果となっています。
内膜compactionの程度や元々の厚みによるのではないかと思っていますので、一例一例患者さまにあった治療説明をすべきだと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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