体外受精

2025.10.07

卵巣内自家PRP注入のPOR・POI患者への影響:後ろ向き研究 (Fertil Steril. 2025)

はじめに

卵巣再活性化は再生医療の新たな応用として注目されており、自己PRPが卵巣機能回復に効果的である可能性が示唆されています。今回、卵巣反応不良および原発性卵巣機能不全(POI)女性に対する両側卵巣内PRP注入の効果を検討した大規模後方視的研究をご紹介いたします。

ポイント

卵巣反応不良女性では卵巣内PRP治療により卵子の成熟率・受精率が有意に改善しましたが、POI女性では体外受精成績や妊娠予後の改善は認められませんでした。

引用文献

Pietro Molinaro, et al. Fertil Steril. 2025 Sep;124(3):496-505. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.05.143.

論文内容

卵巣反応不良女性および原発性卵巣機能不全(POI)で卵子提供を拒否した女性における自己PRP治療が機能的卵巣予備能パラメータおよび体外受精成績に与える影響を調査することを目的とした観察研究です。 

2021年6月から2023年5月にかけて45歳以下、診断から6か月以上経過した不妊症患者353名(卵巣反応不良207名、POI146名)を対象としました。卵巣反応不良はESHREボローニャ基準により定義され、POI患者は診断時40歳未満で続発性無月経または稀発月経を呈し、研究時点でホルモン療法を受けていない患者としました。 

PRPは月経周期の卵胞期(72.0%)または黄体期(17.9%)に両側卵巣へ超音波ガイド下で注入されました。フォローアップは1回目が約22.5日後(卵巣反応不良群では平均22.5日、POI群では35.2日)、2回目、3回目、4回目と定期的に実施されました。卵巣反応不良群では1回目フォローアップ受診率88.9%、2回目68.6%、3回目39.6%、4回目12.6%でした。POI群では1回目82.9%、2回目60.3%、3回目43.1%、4回目14.4%でした。PRP治療後の卵巣刺激開始までの平均期間は63.2±46.5日でした。主要評価項目はAFCおよびAMHとし、副次評価項目は体外受精パラメータおよび妊娠成績でした。

結果

卵巣反応不良群(40.0±3.8歳、事前AMH=0.43±0.54 ng/mL、事前AFC=2.6±2.4)では、卵巣内PRP治療により各フォローアップ訪問でAFCが治療前レベルと比較して有意に改善しました(事前AFC=2.6±2.4 vs. 1回目AFC=5.3±3.6; 2回目AFC=4.5±3.5; 3回目AFC=4.0±2.4; 4回目AFC=3.6±2.7)。111名の卵巣反応不良女性において治療前100周期、治療後231周期の卵巣刺激が開始され、MII卵子数(治療前:2.4±3.0 vs. 治療後:3.0±3.4)および胚盤胞獲得数(治療前:0.5±0.7 vs. 治療後:0.6±1.1)は同程度でした。しかし、卵子成熟率(治療前:65.8% vs. 治療後:80.8%, P=0.003)および受精率(治療前:61.6% vs. 治療後:75.8%, P=0.011)、受精胚分割率(治療前:61.6% vs. 治療後:73.9%, P=0.03)といった卵子品質関連パラメータで有意な改善が認められました。着床率(治療前:9.4% vs. 治療後:35.1%, P=0.07)および生化学的妊娠率(治療前:12.5% vs. 治療後:41.5%, P=0.07)では統計学的有意差には達しませんでした。継続妊娠率は治療後7.4%、出生率は17.6%でした。PRP治療を受けた卵巣反応不良女性で23例の臨床妊娠(受精胚移植後17例、自然妊娠6例)が確認され、7例の出生に至りました。 

POI群(38.7±4.3歳、事前AMH=0.1±0.1 ng/mL、事前AFC=1±1.2)では、PRP治療はより高いAFC(1回目AFC=2.1±1.9; 2回目AFC=1.9±1.9; 3回目AFC=1.9±1.8, 4回目AFC=1.9±1.7)のみと関連し、AMH値の改善は認められませんでした。体外受精成績では49名のPOI女性が治療前33周期、治療後80周期の卵巣刺激を実施しましたが、卵子回収率(治療前:45.4% vs. 治療後:41.2%)、MII卵子数、成熟率、受精率、胚盤胞数に差は認められませんでした。妊娠率は治療前0%から治療後3.7%に上昇し、6例の臨床妊娠(受精胚移植後3例、自然妊娠3例)があり、1例の出生に至りました。

私見

PRP治療の効果に関して、これまでの研究結果は一貫していません。 

肯定的な報告:

  • Pantos, et al. 2016:閉経周辺期女性8名で月経再開を報告
  • Cakiroglu, et al. 2020:若年POI患者でAMH値とAFCの有意上昇、7.4%の自然妊娠率と22.8%の受精胚移植後妊娠率を報告
  • Cakiroglu, et al. 2022:卵巣反応不良女性でMII卵子数と受精数の増加、胚盤胞数の増加を報告
  • Parvanov, et al. 2022:2回連続のPRP注入後にMII卵子数、形態、胚盤胞品質の改善を報告

否定的・限定的な報告:

  • Barad, et al. 2022:28-54歳女性でPRPの臨床的利益を認めず
  • Herlihy, et al. 2024:若年卵巣反応不良女性(<38歳)での多施設RCTで卵子数、胚盤胞数、正倍数性胚盤胞数に利益なし
  • Barrenetxea, et al. 2024:二重盲検RCTで正倍数性胚盤胞数に差なし

本研究の注目すべきポイントは、卵子や受精胚の「量」ではなく「質」の改善が示されたことです。研究の限界として後方視的性質、未治療対照群がないことです。 
最近の質が高い研究では否定的な報告が立て続けて出ています。 
万人にすすめる治療ではありませんが、患者様の希望に応じて実施できる環境な用意してもよいのかもしれません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# PRP、PFC-FD

# 早発卵巣不全

# 卵巣予備能、AMH

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