治療予後・その他

2026.01.07

母乳を通じたSSRI曝露と小児の認知機能(JAMA Network Open. 2025)

はじめに

SSRI妊娠中曝露が小児の認知発達に与える影響についてはこれまで多数の研究がありますが、授乳期におけるSSRI曝露については研究が限られています。SSRIは母乳中に移行は薬剤にひょってばらつきはありますが相対的乳児投与量は4-12%とされています。今回、妊娠中SSRI曝露を受けた小児において、追加的な授乳期SSRI曝露が認知機能に与える影響を調査した前向きコホート研究をご紹介いたします。

ポイント

妊娠中と授乳期にSSRI曝露した小児のIQスコアを減少しませんでした。

引用文献

Heinonen EW, et al. JAMA Network Open. 2025. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.44989.

論文内容

妊娠中にSSRIで治療を受けた女性の子どもにおいて、妊娠期および授乳期の両方でSSRI曝露を受けた子どもと、妊娠期のみのSSRI曝露に限定された子どもの認知機能を比較することを目的とした前向きコホート研究です。1989年5月8日から2008年4月14日まで、MotherTobabyカリフォルニアコホートに登録された妊婦の児を対象とし、妊娠中にSSRIで治療された母親の子ども97名が4-5歳時にWechsler学習前・学習年齢検査を用いて神経発達テストを受けました。

結果

対象児97名のうち、22名(22.7%)が授乳期SSRI曝露群、37名(38.1%)がSSRI曝露なし授乳群、38名(39.2%)が非授乳群でした。平均検査年齢は4.9±0.7歳でした。使用されたSSRIは、フルオキセチン(デプロメール®、ルボックス®)81名(83.5%)、セルトラリン(ジェイゾロフト®)9名(9.3%)、パロキセチン(パキシル®)8名(8.2%)、シタロプラム2名(2.1%)でした。授乳期SSRI曝露児と授乳期非SSRI曝露児の間で、調整済み平均IQスコアに有意差はありませんでした。非授乳児と比較して、授乳期SSRI曝露児は有意に高い調整済み平均全検査IQスコア(109.4 [95% CI、104.5-114.4] vs 103.1 [95% CI、99.3-106.9];P = .046)および動作性IQスコア(112.3 [95% CI、106.7-118.0] vs 104.2 [95% CI、99.9-108.5];P = .03)を示しましたが、これらの差は妊娠中の母親の気分に関連する因子で調整後は有意ではなくなりました。

私見

症例数がすくないですが、SSRIを内服されている女性の授乳に対してポジティブな中長期予後ですね。SSRIは国内では大半が「授乳中の投与を避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合は、授乳を避けること」と記載されているが、児の排泄・代謝機能が十分な場合、授乳を積極的に中止する必要がないとされています。妊娠時・妊娠後のSSRI使用はご担当されている専門の先生に委ねるとしますが、妊娠したときに必ず聞かれる内容となりますので、併診されている心療内科・精神科の先生のご意見を求めるとともに一言声をかけてあげるためのアップデートが必要かなと日々感じていたので、勉強になりました。

私が生殖医療に関わるうえで必要なのは妊娠時のリスクとなってきます。
先天異常については、NICEのメタアナリシスにより、SSRI全体で先天異常は統計的に関連あり(OR 1.16, 95% CI 1.00-1.35)とされるものの、大奇形では統計的関連なし(OR 1.15, 95% CI 0.98-1.35)とされており、関連があるとしても約1.2倍のリスクに留まるとされています。
先天性心疾患については、SSRI全体で関連あり(OR 1.32, 95% CI 1.01-1.73)とされ、薬剤別解析ではパロキセチン(OR 1.46, 95% CI 1.12-1.90)とフルオキセチン(OR 1.58, 95% CI 1.08-2.32)の2剤で統計的に有意な関連が認められています。パロキセチンについては、25mg超の用量で大奇形・先天性心疾患との関連が統計的に有意であったとする用量依存性の報告もあり(Berard A, et al. Birth Defects Res B Dev Reprod Toxicol, 2007)、積極的使用を控えることが推奨されています。一方、セルトラリンについては、NICEや各種メタ解析、カナダ・ケベック州の大規模コホート研究(約18,000人)において先天性心疾患を含む大奇形との関連が認められておらず、相対的に安全性が高いとされています。
一方、治療しないリスクも重要です。Cohenらの観察研究では、妊娠中の抗うつ薬治療継続群の再発率が26%に対し、治療中断群では68%と高値を示しました(Cohen LS, et al. JAMA, 2006)。さらに、未治療うつ病は早産・胎児発育不全のリスク増加や児の発達遅延との関連も報告されており(Jarde A, et al. JAMA Psychiatry, 2016)、中等度以上のうつ症状では薬物療法のベネフィットがリスクを上回る可能性が高いとされています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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