体外受精

2021.03.15

卵巣予備能低下女性は、胚盤胞正倍数性率は低下するの?( Fertil Steril. 2021)

はじめに

卵子の数と質は関連するかは意見が分かれています。一般的なコンセンサスは、卵巣予備能の低下により卵子の質の低下をもたらさないという考えです。昨年出た卵巣予備能に対してのASRM committee opinionでも、卵巣予備能は一般不妊での出生率を予測しない、体外受精の回収卵子数の増加と、体外受精を実施した際の出生率の弱い増加と関連する程度と報告されています。これは「数≠質」という考えからです。
そして、着床前診断の結果も同様に2012年から2016年にかけて38歳未満の女性のAMHが10パーセンタイル未満の患者345名と、25~75パーセンタイル(IQR)の患者1758名を対象とし、卵子の数と質の違い(胚盤胞率、異数性率、生児出生率)を後方視的に検証しました。体外受精開始周期前の卵巣予備能検査や採卵による回収卵子数の低下から卵子数が少ないと考えられる38歳未満の女性は、卵子数が正常な女性と比較し同等の胚盤胞率、正倍数性受精胚率、正倍数性受精胚移植あたりの生児出生率を示し、これまでの考え方を踏襲した結果となりました(S J Morinら. Hum Reprod. 2018. DOI: 10.1093/humrep/dey238)。
ただ、卵子の数が減ると良い卵子の絶対数も減るはずという考え方も根強く残っており、今回の論文は卵巣予備能が低下している女性は、胚盤胞の正倍数性率は低下することを報告した初の論文です。

ポイント

卵巣予備能低下女性は同年齢の正常女性に比べ、年齢を調整しても生検胚盤胞が正倍数性である確率が24%低く、卵巣予備能の評価は相対的な卵巣の老化(卵子の質)に影響を及ぼしている可能性があります。ただし、正倍数性受精胚を移植した場合の出生率は同等であった。

引用文献

Eleni Greenwood Jaswa, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.051

論文内容

後方視的なコホート研究で2010年から2019年にかけて、19~42歳の女性1,152名が1,675周期の体外受精、8,073個の胚盤胞から異数性を調べる着床前検査を実施しました。評価項目は正倍数性受精胚の発生率(正倍数性胚盤胞の数を体外受精周期ごとの生検胚盤胞の数で割ったもの)としました。
全ての卵巣刺激はゴナドトロピン注射150-450単位を連日使用し、17mm以上の卵胞が2つ育った段階で排卵誘発(メインはhCG 10000単位とFSH 450単位)を行いました。胚盤胞生検の時期は採卵後5日目でGardner分類が3BB以上であることとし、拡張しなかった受精胚はさらに24時間培養し、完全な胚盤胞期に達していない受精胚はすべて廃棄しました。

結果

ボローニャ基準をみたした卵巣予備能が低下している女性(DOR女性)は225名(20%)で、DOR女性はnon-DOR女性に比べ、年齢は高く(39.5歳対37.0歳)、正倍数性受精胚の発生率が低くなりました(29.0%対44.9%)。
年齢を考慮した一般化線形モデルでは、DOR女性はnon-DOR女性に比べ、生検胚盤胞が正倍数性である確率が24%低くなりました。年齢を調整したMII卵子回収数が下1/4の女性とした二次解析でも同じ結論となりました。DOR女性、non-DOR女性とも正倍数性受精胚を移植した場合の生産率は有意差がありませんでした(n = 944移植、56.8%対54.8%)。
DOR女性はnon-DOR女性を比較し獲得できた胚盤胞は、年齢を調整した後でも正倍数性受精胚である可能性が低くなります。卵巣予備能の評価は、相対的な卵巣の老化(卵子の質)に影響を及ぼしているかもしれません。

私見

卵巣予備能の低下は卵子の質とは関係ないと説明をしていますが、卵子数が少ない人と多い人(同年代)で赤ちゃんになれる卵子の数は一緒だけ残っていますか?と患者様に問われると、わからないという答えしか持ち合わせていません。卵巣予備能低下症例の卵巣刺激と累積出生率の報告はどんどん増えてきていますので、適宜ご紹介いたします。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 卵巣刺激

# 年齢素因

# 卵巣予備能、AMH

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

体外受精をすると体重が増える?(Front Reprod Health. 2024)

2026.03.11

季節が新鮮胚移植周期における妊娠予後に及ぼす影響 (Front. Public Health. 2025)

2026.02.04

培養液有効期限内使用時期は体外受精成績に影響する?(Hum Reprod. 2025)

2026.01.28

Embryo DonationとDouble Gamete Donationの治療成績比較(Fertil Steril. 2025)

2026.01.09

葉酸摂取とART成績(Obstet Gynecol. 2014)

2025.12.10

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

高齢女性における二個胚移植の臨床結果(当院関連報告)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

体外受精児や人工授精児と自然妊娠兄弟の出生時特性の比較(Fertil Steril. 2026)

2026.04.01