体外受精

2021.07.06

GnRHアンタゴニストfixed法・flexible法を考える(Fertil Steril. 2004)

はじめに

GnRHアンタゴニスト法はFSH製剤で卵胞を育てて途中からFSH製剤使用しながら早発排卵を予防するアンタゴニスト製剤を投与する方法です。 
現在使用されているアンタゴニスト製剤には、ガニレスト皮下注0.25mgシリンジ®とセトロタイド注射用0.25mg®がありますが、1999-2000年に米国、欧州で承認を受け2006年(セトロタイド)、2008年(ガニレスト)から国内で承認・販売されています。特徴は、セトロタイドは凍結乾燥用粉末のため、使うときに自分で調整しなくてはいけない点、ガニレストは液体として既に薬剤が充填されているプレフィルド・シリンジになっているのが大きな違いです。薬理作用的には、セトロタイドの方がやや最高濃度到達時間が早く(最高濃度到達時間 セトロタイド 1.1±0.6hr vs. ガニレスト 1.62±0.8hr)、半減期が短い(半減期 セトロタイド 5.9±1.4hr vs. ガニレスト 24.1±6.3hr)傾向にあります。クラシカルな方法ですがクリニックによって大事にしているTIPSがあり、若干卵巣刺激方法が異なります。 
その代表格が採血や卵胞サイズで評価せず卵巣刺激開始6(5)日目からアンタゴニスト製剤を投与するfixed法と、卵巣刺激開始後5-6日目に卵胞サイズや採血をみてアンタゴニスト製剤の投与時期を決めるflexible法があります。 
日本ではflexible法が主流ですが、fixed法でも成績に差がないとされています。 
flexible法とfixed法は車でいうとマニュアルとオートマの違いです。成績が一緒ならfixed法(オートマ)がよいような気がしますが、なぜ日本ではflexible法(マニュアル)が主流なのでしょうか。 

flexible法/fixed法の成績に差がないことを報告しよく引用される論文をご紹介します。 

ポイント

Flexible法とfixed法のGnRHアンタゴニスト投与方法を比較した前向き無作為化比較試験において、両法の妊娠率に有意差は認められませんでした。fixed法はアンタゴニスト投与日数が長くなるものの、flexible法は費用対効果に優れます。患者背景や時代に応じた適切な選択が重要です。 

引用文献

Ernesto Escudero, et al. Fertil Steril. 2004. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2003.07.027 

論文内容

flexible法/fixed法のプロトコールの成績評価をみるためにスペイン、バレンシアで実施された前向き無作為化比較試験です。 
r-FSH300単位を投与し卵巣刺激6日目からセトロタイドを投与したfixed法、トップの発育卵胞が平均直径14mmに達した時点でセトロタイドを投与したflexible法を比較しました。2個以上の卵胞が18mm以上になった段階でhCG10000単位をトリガーとして投与し新鮮胚移植を実施しています。 

結果

卵巣刺激に要した日数は両群とも同程度でしたが、セトロタイドの投与日数はfixed法の方が長くなりました。血中エストラジオール濃度とLH濃度は両群とも同様のカーブを描きました。着床率と妊娠率は、flexible法で23.7%と44.4%、fixed法で28.6%と50.9%となりました(有意差つかず)。 

私見

この論文は平均32歳の女性を対象として卵巣刺激期間が10日間で平均17個とれているので卵巣予備能は十二分にある方が対象となっています。flexible法 50名/fixed法 59名に実施し、アンタゴニスト製剤の使用はflexible法 4.3回/fixed法 5.5回とflexible法の方が無駄に投与しなくていいので費用対効果はいいですね。 
やはり、現在体外受精を行っている患者様は年齢層が高く卵巣予備能が低下している患者様が多く、また、この時代と異なり胚盤胞移植や全胚凍結が主流となってきています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# GnRHアンタゴニスト

# 卵巣刺激

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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